【五輪代表】44年ぶり快挙の舞台裏「俺たちがひとつになった瞬間」 (3ページ目)

  • 栗原正夫●文 text by Kurihara Masao
  • photo by JMPA

 スペイン戦での決勝ゴールをはじめ、チーム最多の3得点を挙げた大津は、彼独特の熱い言動もあって、関塚ジャパンの象徴的な存在となった。その大津も、チームがうまく波に乗れた裏には、この世代ならではの“仲のよさ”がいい方向に出た、と語る。

「仲がいいからこそ、悪いときにもはっきりモノが言える。ただの仲良しグループではなく、後腐れなく本気でモノを言い合える。そんな“空気”がよかった」

 チームメイトを互いに尊重し、リスペクトするような発言が多く聞かれたのも、このチームならではだった。

「(このチームの)何がいいかといえば、DFラインがすごく落ち着いていること。それに応えるためにも、僕らがもっと攻撃をして、後ろを楽にしてあげたい」

 そう語る大津に、「DF陣も前線の選手に感謝していると言っている」と言うと、大津は感激してこう答えた。

「(DF陣が)そんなこと言ってくれているんですか!? 前は守備陣がいいと思ってるし、後ろは『前ががんばっている』と言ってくれる。そういう思いがあって、チームはひとつになると思う」

 大津の言葉は少々青臭い部分があるかもしれないが、彼を筆頭に、仲間を互いに思いやる純粋さが、この躍進の裏にあったことは事実だろう。

 大会前のイギリス国内でのキャンプ中には、こんなことがあった。アジア予選ではレギュラーとしてプレイしながら、本大会のメンバーから漏れた比嘉祐介(横浜F・マリノス)自作のDVDがメンバー全員の前で流された。本番を控えたメンバーを応援するための映像だった。

 その瞬間、誰もが「メンバーに入れなかった選手の分までがんばらなければ……」と本気で思ったという。

 そして、彼らは真剣にメダルを狙っていた。GK権田修一が真顔で語る。
「(壮行試合の)ニュージーランド戦のときから、このチームで絶対にメダルが獲れると思っていた」

 世の中の懐疑的な視線など、彼らには関係なかった。ただただ純粋にチームのことを思い、メダル獲得を信じて真っすぐ突き進んできた。その分脆さを抱えながらも、汚れた大人では築けない“一体感”と“雰囲気のよさ”を武器に、堂々と44年ぶりの大躍進を遂げてしまったのである。

『Sportiva ロンドン五輪・速報&総集編』(2012年8月17日発売)より転載

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