【なでしこ】INAC、リーグ2連覇達成。監督が絶賛した大野忍のキャプテンシー (2ページ目)

  • 早草紀子●文・撮影 text & photo by Hayakusa Noriko

 しかし、そこはINAC。我慢することも知っている。後半には澤をアンカーにして組み立て直すと、相手を置き去りにする持ち前のハイスピードな展開とコンビネーションが戻ってきた。そして、湯郷の一瞬の隙を見逃さず、右サイドをえぐった川澄奈穂美の突破から生まれたゴールで引き離すと、その2分後にも川澄のインターセプトから大野が得点し、試合を決した。

 今シーズンのINACの強さは「攻撃パターンが確実に広がった」(澤)ことにある。この日、3点目を挙げた高瀬愛実は現在得点ランキングトップ(19ゴール)。昨シーズンはサブメンバーの位置から抜け出せず、悔しさの中での優勝だった。見失ってしまっていた感覚が戻り始めたのは、シーズンも半ばに差し掛かったころだった。「ようやく『わかる』感覚になってきた。自分もチームに貢献できているというのが嬉しい」と、高瀬本人も語る。

 京川が離脱した後、高瀬はその穴を埋めるに余りある活躍を見せた。さらに、得点王のタイトルを狙っていた大野は得点ランク3位、川澄も同5位に入っており、得点源が豊富だ。そして中盤では、すっかり復調した澤、相手を背負いながらもそのスピードを失わない韓国代表のチ・ソヨンが攻守に目を光らせている。攻撃に隙がない。互いの力を引き出しながら、状況に応じてアシスト者が変わっていく流れは、相手に的を絞らせない。それをトップスピードで瞬時にやってのけるのは、選手たちが最も成長した部分だ。

 それは、日々のトレーニングに集約されている。範囲をしぼって行なわれるINACのトレーニングは、スピード感満載だ。重要になってくるのは、正確なパスの技術と、判断のスピード。この力が備わっていなければ、おそらくボールに触れることもできないだろう。この壁を乗り越えない限り、INACの選手として試合に出場することは叶わない。

 特にこの1年は、星川監督がS級ライセンス獲得のため、週末しかチームに帯同できないという異例の環境下でありながら、さらにチーム力を深めることができた。それは、ただ有力選手を集めただけでできることではない。その陰にキャプテンマークを巻いた大野の力があったことを、指揮官は称賛した。ムードメーカーで、サッカーへの探求心は人一倍。その分、感情のブレは激しいが、それもまた大野の魅力のひとつだ。

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