「空白の一日」で巨人入りした江川卓は四面楚歌 王貞治でさえ「ああいう形で入団するのはどうなのかな...」と苦言を呈した (2ページ目)
小林は2年連続18勝を挙げる巨人のエースで、また、モデルのような体形と甘いルックスで女性ファンから抜群の人気を誇っていた。その小林とのトレードであり、しかも宮崎キャンプ出発の日に羽田空港で球団関係者がに囲まれ、連行されるシーンがあまりにも衝撃的だっただけに、巨人の選手は余計に憎悪の感情を抱いたのかもしれない。
中畑が続ける。
「卓が"ダーティー"な存在として見られること自体は、本人も平気だったと思うんだ。でも、小林さんの人生をトレードで大きく変えてしまったことだけは、どうしても拭いきれないものがあったんじゃないかな。同じピッチャーとして、取り返しのつかないことをしてしまったという悔いをずっと引きずり、十字架のように背負ってきたんだと思う。もう半世紀も経ったんだし、"空白の一日"について自分から話したほうが、卓にとっても楽になるんじゃないかと思うんだけどね」
【孤独な自主キャンプ】
こうして巨人に入団した江川に、幸先のいいスタートなど、最初から望めるはずもなかった。
野球協約に従い、巨人移籍は開幕後となったため、春季キャンプは不参加。さらに、開幕から2カ月間は公式戦出場自粛となった江川は、巨人OBの矢沢正と一緒に地元・小山(栃木)で自主キャンプを行なった。
自前のトレーニングウェアを着て、自宅近くの小山運動公園グラウンドで汗を流した。ギャラリーが大勢詰めかけるなか、黙々とトレーニングに勤しんだ。
4月7日、巨人と阪神の譲渡手続きが完了し、江川は二度目の入団会見に臨んだ。しかし通常の入団とはまったく異なるもので、巨人の選手たちにウエルカムな空気はない。フロントや首脳陣はともかく、小林とのトレードの一件があった以上、敵意の視線は避けられなかった。
江川の1歳下で、1978年に入団し、新人王を獲った角盈男が語る。
2 / 3

