藤田平は怪物・江川卓の高めのストレートを完全スルー 低めのボールだけを狙って3割近い打率を残した (2ページ目)
高めのストレートを武器にしていた江川を攻略するうえで、藤田がほかの打者と違うのは初めからその球を捨てていたことだ。ホームランバッターであるならば、確実に高めのストレートを狙いにいくだろう。相手投手の得意球を狙って打つのか、主砲の役目でもあるからだ。
ただ、これまで江川と対戦した選手の話を聞くと、ほとんどの打者が高めのストレートを意識していた。すべては江川の真っすぐに振り遅れずに対応したいからだ。
しかし藤田は違った。スタイルがミートに徹する打法だっただけに、自分の苦手なコースが来たらカットで逃げ、得意である低めの球だけを狙った。
「僕は速い球をあまり苦にしなかった。振り回すほうじゃなくて、当てるほうやったから。柔道の嘉納治五郎さんの『相手の力を利用しろ』ではないけど、江川君の力強い球を振り回すのではなく、ミートさえすれば飛んでいくだろうという意識で打っていた。ライトへ引っ張ってやろうなんて考えたことは一度もない。来た球を、打てる球をミートする。バットの太いところに当たれば、どこかへ飛んでいくだろうという感覚ですから」
【高めが見えないように構えた】
藤田のバッティングスタイルは、球に逆らわないミート打法で、自分の好きな低めのコースを待つタイプ。率を残せるバッターの特徴は、ミート力もそうだが、徹底した"待ち"ができることだ。狙い球を絞り、1打席に一球くるかどうかの甘い球、もしくは好きな球をいかにジャストミートできるか。
首位打者を狙うタイプの選手は、ある種わがままである。ホームランや打点と違って、率は毎日変動する。だから1打席の集中力がものを言い、貪欲かつ冷静で打席に立たなくてはならない。
「江川君のカーブは、一度上がってからドロンと落ちてくるような感じ。落差の大きいカーブというのか、ストレートが速いから緩急の差が大きいよね。とにかく僕は、高めのストレートに手を出さないようにヘルメットを深く被っていた。ヘルメットのツバを下げ、あえて目線を下げた。高めが見えないような感じで、構えとったんやね。だから、低めの球しか手を出さなかった。それで2割9分ぐらい打てたのかなと思いますね」
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