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江川卓の球を打席で見た瞬間、小松辰雄は「こりゃ打てんな」と観念「プロに入ってビックリしたのは江川さんだけ」 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 プロ入り当初からスピードだけには自信があった小松は、2年目からリリーフとして一軍に定着し、順調にキャリアを積んでいく。

 その剛速球を武器に、先発転向後に2度の最多勝を獲得した小松にとって、自分より速いと思ったピッチャーがいたのかどうか、どうしても聞いてみたかった。

【高校からプロに入っていれば300勝できた】

「ビックリしたのは江川さんだけ。あとは全然思わなかった。巨人の槙原(寛己)も155キロのスピードボールを投げていたけど、怖さはなかった。打席に立って、江川さんだけはビックリしたからね。回転がきれいで、ポーンと浮き上がってくる。尋常じゃない伸びをしていた。

 あの投げ方を真似したこともあるけど、自分にはできなかった。でもある日、原(辰徳)さんが『おまえもいい時は、ああいうボールに見えた』って言ってくれた。沢村賞を獲得した85年は江川さんのようなボールだったと」

 広島の津田恒実、大野豊、大洋(現・DeNA)の遠藤一彦といった速球派の好投手はいたが、小松にスピードで勝る者はいなかった。デビューしたての槙原も最速155キロを投げていたが、怖さも速さも感じなかった。ただ江川については、スピードは小松のほうが出ていたが、球質のすごさに驚愕したという。

「江川さんって、大学の時に肩を壊しちゃったからね。法政大時代は無茶苦茶だったもんね。1戦目に先発して、2戦目は勝つチャンスがあれば投げて、3戦目にまた先発だからね。それを4年間続けて通算47勝。そりゃ肩を壊すって。高校からプロに入っていれば300勝はしていたと思う。

 後にも先にも、バッターボックスに入ってビックリしたのは江川さんのボールだけ。バレーボールぐらい大きく見えて、グイーンと伸びてくる。『うわっ』って思っちゃった。その瞬間、『こりゃ打てんな』と観念した。だから江川さんと先発で投げ合う時は、力んでしまうんだろうね。江川さんが引退する年、最後に投げ合って完封で勝ったことは覚えているんだけど、あとは全部負けた」

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