なぜオリックスは続々と新戦力が台頭するのか ルーキー茶野篤政を育てた最強の育成戦略 (4ページ目)
「彼を一軍に上げるなんて、最初は考えていなかったでしょう。当然、球団としてもまずはドラフト上位で指名した選手に成長してほしいと思うはずです。でもオリックスのいいところは、キャンプ地の球場が一軍、二軍が隣り合わせになっていて、気になる選手がいればすぐに見に行けること。おそらくファームの首脳陣が『茶野っていう動きのいい選手がいる』って伝えたんじゃないかなと思うんです。そこで認められたのがラッキーでしたね」
岡本は2014年から2シーズン、オリックスの二軍監督を務めたことがある。就任した時に、高校生ルーキーとしてドラフト3位で入団してきたのが若月健矢だった。当時のオリックスのレギュラー捕手は入団7年目の伊藤光(現・DeNA)で、数年後を考えた時に若月にはレギュラーポジションを任せなければならないと岡本は考えた。そこで球団フロントに「とにかく試合で使っていきましょう」という話をしたという。
翌年には、横浜隼人高からドラフト2位で宗佑磨が入団。宗もまた、ファームでどんどん試合に出していこうという方針だった。
「ただ彼は膝を悪くして入ってきましたから、まずは故障が癒えてからということになりました」
若い選手にはどんどんチャンスを与え、それを首脳陣が見逃さない。そういうオリックスの育成システムを岡本は知っていただけに、茶野がスターダムにのし上がっていく姿を見ても驚くことはなかった。
「日本一のチームのレギュラーですからね。努力もそうですが、茶野はプロのレベルに適応した。彼の努力、実力はもちろんですが、オリックスも認めてくれて、育ててくれた。いろんなことが重なって今があると思うんです」
岡本に話を聞いていると、何度も茶野について「彼は真面目だから、他人をよくするヤツだから」という言葉が出てきた。これが茶野の最大の武器だと岡本は言うが、一般に「プロ向き」とされるタイプは、ライバルを蹴落としてでものし上がる"ちょいワル"だとも言われている。しかし岡本は一蹴する。
「真面目が一番ですよ。僕が思うに、レギュラーになる選手に悪いヤツなんていませんよ。勝負がかかっているからこそ、人のよさが必要なんです。やっぱり人をよくする行動ができるヤツが一流だと思うんですよ。常勝チームになるには、チームがいいヤツの集団になることが必要なんです。『オレが、オレが』という気持ちでもいいんですが、それが人を育てる行動にならないと。今のオリックスはそういうチームだと思います。そうなっていったのは、やっぱり中嶋聡監督と福良GMじゃないですかね」
著者プロフィール
阿佐 智 (あさ・さとし)
これまで190カ国を訪ね歩き、22カ国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌、ウェブサイトに寄稿している。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。
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