プリンスホテル1年目のキャンプで脱走 失意の橋本武広を救ったのは「ふたりの石井」だった (4ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

 球場まで野球部専用のバスで来ていたにも関わらず、専属のベテラン運転手が「乗るな! 誰も。みんな走って帰れ!」と命じた。実体は運転手というより現場監督で、なぜか選手たちを指導、管理していたという。その日は車で40分かかる道のり、約16キロを走ることになった。

「でも、それだけ走って合宿所に帰れば、大浴場はあるし、ジュース飲み放題だし、食事をちゃんとつくってくれるシェフがいて、昼からステーキの日もあるし。ひとり部屋で冷暖房がきいていたし。社会人チームのなかでは最高の待遇だったと思います。今の時代でも、そこまで待遇がいいチームはないでしょうね」

 好待遇は生活面だけではなかった。合宿所には室内練習場とウエート場が併設され、個々にいくらでも練習できた。橋本もウエイトトレーニングで必要な筋肉をつけ、大学卒業時の体重から10キロ増やした。一方、室内練習場では野手が個々にバットを振った。深夜まで金属バットの打球音が響き、近くに住む当時の西武球団代表、坂井保之から苦情が入るほどだったという。

(=敬称略)

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プロフィール

  • 高橋安幸

    高橋安幸 (たかはし・やすゆき)

    1965年、新潟県生まれ。 ベースボールライター。 日本大学芸術学部卒業。 出版社勤務を経てフリーランスとなり、雑誌「野球小僧」(現「野球太郎」)の創刊に参加。 主に昭和から平成にかけてのプロ野球をテーマとして精力的に取材・執筆する。 著書に『増補改訂版 伝説のプロ野球選手に会いに行く 球界黎明期編』(廣済堂文庫)、『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』(集英社文庫)など

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