なぜ楽天・内星龍は山本由伸の「完コピ」投球フォームになったのか 契機は「野球ってしんどいなぁ...」の絶望感だった (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Sankei Visual

 純粋な探求心が、内の潜在能力を覚醒させる。高校3年の春を迎える頃には、球速が130キロ台から146キロまで飛躍したのである。

 内が3年生となった2020年と言えば、新型コロナウイルスの感染拡大により甲子園での全国大会をはじめとする公式戦が軒並み中止となるなど、アピールの場がほぼ失われた不遇の年でもあった。そんななか、プロを目指す高校生による練習会に参加した内のピッチングがスカウトの目に留まる。

 ドラフト会議で内を6位で指名した、楽天の評価はこうだった。

「体格がよく、馬力がある。将来が楽しみな投手」

 期待されたのはあくまで将来性であり、内のプロでのキャリアは最初から順調ではなかった。1年目は二軍で2試合の登板に終わり、昨年にいたっては中継ぎとして15試合に投げ防御率8.49と、見栄えのする成績とはほど遠かった。

【劇的な変貌を遂げた2つの要因】

 そんな内が今シーズン、劇的な変貌を遂げられているのには、ふたつの過程がある。

 ひとつは、ピッチングフォームのアップデートだ。今年の内を象徴する左足を摺り足気味に踏み込むそれは、山本を真似たのではなく、接骨院のトレーナーとつくり上げてきたのだと、彼は説明する。

「別に由伸さんを意識したり、接骨院の先生から『摺り足にしなさい』と指導されたりしたわけではなくて。体重移動のなかで前への推進力を出すために一番効率がよくて、リリースの時にもボールに力が伝わりやすかったのが、あのフォームだったんです」

 プロ入り後にそのトレーナーを介して知り合った山本からも、自身と似ているフォームに対する言及はないという。内も技術的なアドバイスを請うこともなく、接骨院で顔を合わせれば世間話がほとんどなのだと笑う。

「野球のことも話しますけど、興味深い話とかはないっす(笑)。面倒見のいいお兄ちゃんって感じで、仲よくさせてもらってるって感じです」

 そうはいっても、同じ人間に師事し、図らずも「完コピ」と世間から言われるほどピッチャーとして大きな共通点を持つ内の地盤は、徐々に固まりつつあるのは事実だ。

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