「ギャンブルスタート」を生んだ伝説のバックホーム 野村克也が悔しがった辻発彦のワンプレーが野球史を変えた (2ページ目)

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Sankei Visual

── 92年のヤクルトとの日本シリーズで印象的なシーンは第7戦、1対1で迎えた7回裏一死満塁。代打・杉浦選手の一、二塁間のゴロを辻さんが捕球してバックホーム。三塁走者の広沢克実選手は本塁フォースアウトになりました。

 とにかく1点もやれない状況なので、前身守備を敷いて、自分のところに打球が飛んできたら、まず本塁でアウトをとる。たとえ際どいタイミングであろうとバックホームする気持ちでした。バットが折れたので、打球は弱かったんです。強い打球だったらもっと簡単に処理できたと思うんですけど、そんなに速くなかった。

── あの場面、辻さんはワンバウンドで打球を捕って、そのまま左回転してバックホームし、広沢さんを本塁で封殺しました。ただ伊東勤捕手がジャンプで捕球したように、送球は高かった。のちに古田敦也さん(ヤクルト)は「辻さんほどの名手であれば、もっと低く投げなければいけなかった」と語っておられました。

 一瞬迷ったのは、私の左側に飛んだ打球に対して、無理して正面に入れば左回転しなくても投げられるかなと。中途半端に合わせたらファンブルしやすいんです。だから瞬間的に打球に合わせて、左回りで本塁に投げようと思いました。

── 一塁走者が、打球を捕って送球しようとする辻さんにかぶりました。

 そのあたりは気にしまいと。打球を捕った勢いで左に360度回転してバックホーム。「だいたい、ここらへんだな」という感覚で投げた送球が少し高く逸れてしまって、一瞬「あっ!」と思いました。フォースアウトの状況なので、本塁ベースを踏めばアウトですが、伊東がジャンプして捕球......三塁走者の広沢が滑り込んだところに着地し、結果としてブロックした形になってアウトになりました。

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