「ヤクルトから戦力外通告を受けた時点で現役ではない」 2018年最優秀中継ぎ投手の近藤一樹が明かした「引退宣言」をしない理由 (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

【「戦力外通告」の時点で、すでに「引退」だった】

 確かに彼の言うように、プロの世界で何も結果を残せなかった選手がわざわざ「引退宣言」をすることはないだろう。しかし近藤は、今は存在しない近鉄バファローズに入団し、オリックス、ヤクルトと19年間のプロ生活をまっとうした。2018年には74試合に登板するなど獅子奮迅の大活躍を見せ、最優秀中継ぎ投手のタイトルまで獲得している。決して「何も結果を残せなかった選手」ではない。

「そう言ってもらえるのはありがたいですけど、たとえば引退セレモニーをやる選手は限られた人だけでいいと思うんです。でも、今はみんながみんなセレモニーをやっているじゃないですか。僕は、そういう場所にはあまり魅力を感じないですね。引退を宣言することとセレモニーは、また違うかもしれないですけど......」

 2020年シーズンオフ、近藤はヤクルトから戦力外通告を受けた。望むと望まざるとにかかわらず、彼のなかではこの時点ですでに「引退」だったのだという。しかし、「まだ自分はプレーできる」という思いがあったからこそ、独立リーグで実戦感覚をキープしながら、くるべきオファーを待ち続けていたのだ。近藤は言う。

「正直、『独立リーグでプレーをすることが、本当に現役と言えるのだろうか?』と思っています。自分は独立リーグに所属したけれど、もし僕が第三者の立場だったとしたら、独立リーグでプレーすることを『現役だ』とは認めないと思うんです。僕はたまたま独立に所属していたから、独立リーガーとして現役で生きているみたいに思われているけど、ヤクルトから戦力外通告を受けた時点で、すでに僕は現役ではないんです」

 もちろん、NPBとは異なる別組織ではあるけれど、独立リーグもまた「プロ野球」である。しかし、近藤のなかでは「アルバイトをしなければ成立しない世界は本当のプロ野球ではない」という思いがある。

「独立リーグでプレーをしている間は、あくまでも現役を続けるための模索期間でした。僕の考えでは、NPBからのオファーがあって初めて『現役続行』と言えるんだと思っています。でも、オファーはこなかった。ということは、そのまま『引退』ということなんだと思っています。それをわざわざ宣言する必要もないんじゃないですかね......」

 その言葉を静かに噛み締める。しばしの沈黙を経て、近藤は最後に言った。

「別に、『絶対に宣言しないぞ』と決めているわけではないんです。そもそも、自分では『すでに現役ではない』と思っていたから口にしなかっただけで、その後もわざわざそれを口にするタイミングがなかっただけです。何となく、『いつ辞めても、いつやってもいいや』みたいな感覚になっちゃっていたので、だったら別に『わざわざ言わなくていいのかな?』みたいな思いでした。でも、全然言っても問題ないです、僕は」

 現在は、香川時代に出会った知人の紹介で子どもたちの指導もしている。近々、学生野球資格回復研修制度も受講する。今後については「何も決まってないので未定です」と語るが、第二の人生も野球とともに歩み続けることになりそうだ。もうすぐ不惑を迎える近藤一樹の第二章が、これから始まろうとしている――。

(インタビュー後編:勇退する恩師を語る 日大三高・小倉全由監督はセンバツで負けた日に「お前らなら全国でトップになれる」>>)

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