ロッテにドラ3で入団もプロ1年目にイップス。島孝明は育成契約打診を断り、大学進学からの「野球界復帰」を目指す (4ページ目)

  • 松永多佳倫●文・写真 text & photo by Matsunaga Takarin

 島は吉井にすべてをさらけ出して相談し、最後は背中を押される形で球団に退団の意志を伝えた。21歳の島は、育成契約といえどもプロ野球選手として与えられたチャンスを自ら断ち、新たな世界へと飛び込む決心をした。

「フロントは育成契約を断ることに対して、何も言わずに黙って了承してくれました。普通にクビって言われるよりも、選択肢があっての決断は自分に責任も課せられますし、なおさら『やらなきゃ』という思いが湧いてきました」

 島はセカンドキャリアについて、迷うことなく大学進学を決めた。日本プロ野球選手会が2017年に國學院大学と協力して、元プロ野球選手を対象に設けた『セカンドキャリア特別選考入試』を受けることにした。

 この入試試験は、ほとんどのA.O入試と同じで、小論文と面接のみ。試験対策として小論文の勉強を徹底的にやった結果、見事、國學院大学人間開発学部に合格した。

「いまプログラミングを勉強していて、これから求められていく重要なスキルです。野球のデータを分析する活動をしているんですけど、ビッグデータをエクセルで処理するには果てしなく時間がかかってしまうため、プログラミングを使ってやっています」

 島は生体力学であるバイオメカニクスの分野をメインに研究していこうと考えている。たとえばスポーツにおける力学的な観点で言えば、プロ野球においてもボールの回転数や打球の速度、角度を計測するなど、あらゆる場面でバイオメカニクスが必要となってくる。客観的なデータを用いることで、言語化できる役割を担い、さまざま事象に対して選手の能力が可視化できるようになれば、競技力向上が見込める。

 島にとってイップスで苦しんだ3年間は決して遠回りではなく、さらなる飛躍のための時間だった。今はそう思えることで、勉学に没頭している。

 プロ野球をより進化させて発展するためにも、島のようなプロ経験者で意欲的に研究している人材が必要不可欠となってくる。島が研究者となって、いずれ野球界に戻ってくる日もそう遠くなさそうだ。

【著者プロフィール】

松永多佳倫 (まつなが・たかりん)
1968 年生まれ、岐阜県大垣市出身。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。著書に『沖縄を変えた男 栽弘義−高校野球に捧げた生涯』(集英社文庫)をはじめ、『確執と信念』(扶桑社)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』(ダ・ヴィンチBOOKS)など著作多数

松永多佳倫氏新刊『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)

  元NPB選手の地獄からの逆転人生を描いたビジネス書
時に、無謀な勢いと根拠なき自信が、未来をこじ開ける人生はいつでも変えられる!!
プロ野球から引退した男たちの「その後」、人生をすべて野球に捧げたあとの「その後」、引退後のプロ野球選手はいま何を考えてるのか?公認会計士や年商160億円の社⻑など、第二の人生で世間の予想を超え、大きな変身を遂げた選手たちの人生を追う。プレッシャーに押しつぶされながら苦悩の狭間に揺れ動く姿を1冊にまとめた衝撃作品! 絶賛発売中

【目次】プロローグ

1章 寺田光輝 日本プロ野球出身者初の医師(卵)

2章 奥村武博 7年連続試験不合格からの公認会計士

3章 松谷竜二郎 ズブの素人から年商160億の社長

4章 島孝明 契約を蹴り、心理学者を目指し大学進学

5章 大嶋匠 前代未聞のソフトボールからプロ野球界へ、引退後は、難関試験を突破し地方公務員

あとがき

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