大谷翔平は「疲労感」と「疲労」の違いを察知。登板回避に見るセンサーの優秀さ (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Taguchi Yukihito

 投手が長く活躍するためには、疲労の蓄積を感じとり、自分にかかる負荷をうまくコントロールすることが必要になる。「ワークロード」、つまりヒジへの「負荷量」(=強度×量)を「パルススロー」というテクノロジーで計測できると連載10回目で紹介した。この器具と自身の感覚をうまく組み合わせ、最適な登板間隔を模索しているひとりがエンゼルスの大谷だ。

 こうしたアプローチは現代ならではで、その恩恵は大きい反面、懸念材料もあると荻野は指摘する。

「今はデータがどんどんとれるようになり、数字に頼りすぎて主観が疎かになっているアマチュアの選手もいます。でも、自分の体を一番わかっているのは自分自身ですよね。この感覚がなくなると、壊れちゃうと思います。 データはあくまで主観を磨くための道具ですから」

「疲労感」と「疲労」の違い

 荻野は現在、フリーのコーチとして社会人から少年世代まで全国各地で指導しながら、不安を募らせていることがある。練習ではそれほど投げていないのに、試合になると急に多くの球数を投げさせる起用法が目につくのだ。

 2020年に始まったコロナ禍は3年目に突入し、「十分に練習できない」とこぼす高校野球指導者の声を何度も耳にした。練習不足で体の土台ができていないため、コロナ前より故障者が出やすくなっているという。

 それでも公式戦は例年どおりにやってくる。今年の春季大会に出場したある高校は、エースが8回までに約120球を投げて足をつった。それでも監督に「行けるか?」と聞かれ、「はい」しか選択肢はなかった。結局、1点リードの9回二死から逆転を許し、その球数は150球に達したという。ちなみに2番手投手は数週間前に新型コロナウイルスに罹患し、起用できなかったそうだ。

 根本的にはトーナメントからリーグ戦への移行など環境改善が求められるが、変革がすぐに行なわれる可能性は決して高くなく、投手たちは自分で身を守るしかない。そのうえで、適正な負荷をかけていく必要が同時にある。

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