42歳・久保康友が無給で独立リーグのマウンドに上がる理由。「仕事やお金がなくなっても死ぬわけじゃないし...」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

今日の自分を超えていけばいい

 2020年からの2年間はコロナ禍の影響もあり、海外でのプレーができなかった。それでも久保は、「家族と濃密な時間を過ごせた」とポジティブにとらえている。そして、いまだに海外でのプレー、生活をあきらめていない。

 ただし、2年間プレーしていない42歳にオファーが届くとは考えにくい。そこで久保は自ら関西独立リーグの兵庫ブレイバーズにコンタクトをとり、無給の条件でプレーを続けることにしたのだ。

「若い選手と体を動かすと、不思議なものでエネルギーをもらえて若返りますよ」

 その屈託のない笑顔を見ていると、人生の憂いや悩みとは無縁のように思えてくる。妻子を持ち、現役時代の蓄えを切り崩す生活を送りながら、なぜこんなにも明るいのか。漠然とした不安に襲われることはないのか。そう聞くと、久保はこう答えた。

「仕事やお金がなくなっても別に死ぬわけじゃないし、日本なら頭を下げれば何かしら仕事は見つかるし、食べていけるでしょう。見栄とかプライドが邪魔をして、『生活水準を下げたくない』と汲々とするくらいなら、そんなものさっさと脱ぎ捨てればいいだけのことなので」

 そうは言っても長く続くコロナ禍もあり、先行きの見えない不安を抱えながら生きている人間も大勢いる。筆者もそのひとりだが、そんな人間からすると久保の生き方がまぶしく見えてたまらない。そう伝えると、久保はこんな話をしてくれた。

「メキシコの人って、未来のことなんて考えていないんです。たとえ同じものであっても、今日と明日では価値が一緒かはわからない。一般人レベルでは保険や補償だってない。でも、めちゃくちゃ明るいんですよ。日本人のほうが絶対に裕福なはずですけど、先のことを考えすぎて落ち込んでいる人っていっぱいいますよね」

 そして、久保はこう続けた。

「人と比べるから落胆するんじゃないですか。今日の自分を明日に超えていけばいい。人の生活、人の仕事、人の待遇を比べるから落ち込むし、みんな不幸になる。僕は先のことを考えても意味があるんかな? と思っているので、その時にやりたいと思ったことをやっているだけですよ」

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