費用約10万円、復帰率90%...身近になったトミー・ジョン手術を受ける前にやるべきこと (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

「だいたい9割くらいは復帰できますし、選手の"最終手段"としてはいいと思います」

 そう語るのは、岡山大学病院整形外科の島村安則医師だ。自身も大学までプレーした同医師が条件つきで肯定したのは、メスを入れるまでの背景が十分に理解されているとは言えないからだ。

「トミー・ジョン手術が"ひとり歩き"している感があります。それをすればよくなるわけではない、と言っておきたい。トミー・ジョン手術があるのはいいことですが、その前にやるべきことがいっぱいあります」

トミー・ジョン手術に至る引き金

 トミー・ジョン手術は内側側副靱帯再建手術という名のとおり、ヒジの靭帯が機能せず投球に支障をきたす場合、腱を同部に移植する術式だ。実戦復帰には約1年を要する。日本では保険適用され、費用は約10万円。なかには中学生が受けにくることもあるという。

 50年近く前に初めて行なわれたこの手術はよくも悪くも一般的になったとはいえ、整形外科医にとって難度が高く、日本で執刀できる者は限られている。

「何をやっても治らないから、トミー・ジョン手術をしてください」

 島村医師はそう患者を紹介されることもあるが、診断の結果、「必要ない」と帰らせるケースもあると言う。

「高校生の場合、もともと剥離して治らない跡があり、さらに痛めている選手も多くいます。そういう時には最悪、トミー・ジョン手術をやらざるを得ないケースもあるでしょうが、多くの場合は全身のコンディションが悪くて痛くなっている。コンディションさえ整えてあげれば、そのヒジの状態でプレーできるケースもよくあります。コンディションがよくなってもまだ痛い場合は、『じゃあ、やるか』という話をします」

 トミー・ジョン手術に至るには、当然原因がある。引き金のひとつが野球ヒジだ。

 小中学生はヒジの内側に過度の負担がかかると、骨や靭帯が引っ張られて剥離骨折に至る場合がある。剥離、つまり骨と靭帯がはがれて傷跡がつくと、紙を折った時と同様、その跡は二度と消えない。

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