2022.01.21

松坂大輔も追い求めた幻の一球。水島新司さんの名作に込められた「真のプロ野球のあり方」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 新田小次郎というピッチャーをご存知か。

 日本海高のエースとして1981年、夏の甲子園の決勝で東大一高に0-1で敗れて準優勝。その年のドラフト会議で12球団すべてから1位入札を受けた、最速160キロのサウスポーである。

 クジの結果、小次郎の交渉権を獲得したのは小金井スタジアムを本拠地とするワイルド・リーグの弱小チーム、武蔵オリオールズだった。しかし小次郎は、自分の生涯を賭ける職場を他人が引いたクジで決められるのはイヤだと言って入団を拒否、浪人の道を歩むことを決める。

 するとその翌年、奇跡が起こった。オールジャパンプロ野球に御影英了コミッショナーが就任すると、新コミッショナーは突如、ドラフト制度の廃止を決定したのである。プロを志す若者の人生をクジで決めるべきではない、行きたい球団を選べないなんてバカげているなどと語った劇中のコミッショナーの言葉は、当時、ドラフトで江川卓が騒がれた時代背景と無関係ではなかったかもしれない。 まさに"作者"からのメッセージだったのではなかったか。

"作者"とは──そう、野球マンガの大家、水島新司さんである。

多くのプロ野球選手に影響を与えた水島新司氏(写真左)多くのプロ野球選手に影響を与えた水島新司氏(写真左) この記事に関連する写真を見る

【時代を先取りしていた水島マンガ】

 新田小次郎を主人公とした『光の小次郎』は、1981年からおよそ3年半、週刊少年マガジン(講談社)で連載されていた。『ドカベン』『大甲子園』『野球狂の詩』『あぶさん』『男どアホウ甲子園』『一球さん』『球道くん』といった水島作品のなかではメジャーとは言いきれず、もしかしたら読んだことのない野球好きもいるかもしれない。しかしこの作品は、水島さんのプロ野球界への想いが溢れた傑作だと思う。

 登場するのはすべて架空の12球団。実際のセ、パ両リーグを土台にしているとはいえ、監督や選手はもちろん、本拠地やユニフォーム、ペットマークから親会社の社名、業種までがすべて具体的に設定されている。

 球団名は地名プラス、実在するMLBの球団名で、当時は球団がなかった北海道には北斗ビールを親会社とする札幌ブルワーズを配置、当時はまだ日本にひとつもなかったドーム球場を札幌に存在させていた。四国にも帝国観光を親会社とする高知ロイヤルズを、ライオンズを失って球団のなかった福岡にも平和海運を親会社とする博多パイレーツを置いた。これは今から40年も前に水島さんが理想として描いた、地域密着を是とするプロ野球だったのだ。