アゴを肩に乗せてホームランを打つ。長池徳士の武骨な打撃フォーム

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

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「令和に語る、昭和プロ野球の仕事人」 第19回 長池徳士・前編 (記事一覧を見る>>)

「昭和プロ野球人」の貴重な過去のインタビュー素材を発掘し、その真髄に迫るシリーズ。美しいフォームのアンダースロー投手を取り上げた前回に続き、今回はモノマネしやすい打撃フォームで知られた長池徳士(ながいけ あつし、1978年までは徳二・とくじ)さんにフォーカスする。

 阪急ひと筋の現役生活を送り、本塁打王と打点王が3回ずつ、ほかにも打撃部門で数々の記録を打ち立てた実績を誇る長池さん。その輝かしい球歴の割には伝わる機会の少なかった肉声をもとに、昭和を代表する強打者の実像を探りたい。

アゴが肩に食い込む長池徳士の独特な打撃フォーム(写真=時事フォト)アゴが肩に食い込む長池徳士の独特な打撃フォーム(写真=時事フォト)

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 長池徳士さんに会いに行ったのは2011年6月。その前月、オリックスが前身球団=阪急ブレーブスのユニフォームを復刻した。着用してプレーするナインを見ていたら、小学生の頃、阪急が日本シリーズで三連覇したときの記憶がよみがえった。長池さんは[ミスター・ブレーブス]と呼ばれた4番打者だった。

 三連覇は1975年に広島、76年、77年と巨人を倒して達成された。当時の僕は阪急の本拠地・兵庫から遠く離れた東北に住む巨人ファンだったが、パ・リーグ優勝チームの強さを痛切に感じていた。そのなかで長池さんが印象的だったのは、打撃フォームによる。

 右打席で左腕を大きく捕手側に引き、左肩にアゴを乗せる独特の構え。野球好き仲間の間で、「ナガイケ!」と言ってからその真似をするのが流行り、巨人の王貞治=一本足打法の真似に次いで人気があった。が、当時の東北でパ・リーグの試合を観る機会はテレビでも滅多にない。

 だから長池さんといえば「阪急の4番」というだけで、どんな選手だったのか、詳しく知らないまま大人になってしまった。野球の取材をするようになってからも、知識はプロフィール程度。それが復刻ユニフォームをきっかけにあらためて興味を持ち、資料に当たろうとしたところ、関連の文献が少ない。意外だった。

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