高校球界に元プロ監督たちが急増。イチローが示した技術伝承の意義 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

「中谷監督からは『ピッチャーを立てるのがおまえの仕事だ』と言われています。主役はピッチャーだと。最初は自分の結果ばかりが気になって、ピッチャーにも厳しく言ってしまっていたんですけど、それではかえって(萎縮して)投げてくれないことに気づきました。周りが見えるようになって、ピッチャーのよさを引き出せるようになってきたと思います」

 現在チームには高校屈指のスラッガー・徳丸天晴、思い切りのいいスイングが魅力の渡部海(1年)、投手には安定感のある中西聖輝と役者が揃う。中谷監督が甲子園で胴上げされる日も近いかもしれない。

 2017年夏の甲子園は、ベスト4に進出した4校のうち2校が元プロ監督だった。東海大菅生(西東京)の若林弘泰監督と天理(奈良)の中村良二監督である。

 若林監督は苦労人として知られる。現役時代は投手として中日に入団したものの、故障に泣き31歳で退団。サラリーマン生活を経て、37歳にして教員免許を取得するため大学へ通った。東海大菅生に赴任した当時は元プロ指導者に対する規定があったため、2年間は野球部の指導ができなかった。

 元プロ野球選手が教員として野球部を指導する場合でも、かつては教員として10年勤めなければ指導できないという極めて厳しいルールが存在した。その期間は10年から5年、2年と徐々に縮まり、2013年には大幅に改定。元プロ選手が3日間の研修会を受講すれば、たとえ教員でなくても指導者資格が回復できるようになったのだ。若林監督は規定が緩和される前の、雌伏の時期を経験している。

 2009年に晴れて東海大菅生の監督に就任して以来、若林監督は毎年安定して甲子園を狙えるチームに仕上げている。

 高橋優貴(巨人)らを輩出したように投手育成に定評がある一方、ノックの名手でもある。練習中には厳しい声かけをしながら選手の闘争心を引き出していく。

 今夏の独自大会では3年生主体でチームを構成するチームが目立つなか、東海大菅生は下級生を含めたベストメンバーで臨んだ。その背景には、ただ実力至上主義というだけではない、若林監督の愛情があった。

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