暴力を経験した元プロ野球選手が考案。「野球ドリル」で小学生を育てる (3ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

「大学に入ってから、先輩によく殴られました。僕は1年生から寮に入っていたんですけど、1年生にはいろいろな当番があって、やることがたくさんある。チョンボをすれば、すぐに殴られる。『理不尽なことにも耐えないと』と思って1年間だけは我慢して、寮を出ました」

 寮では部屋長である先輩に対して24時間、気を遣わなければならない。

「子どもの頃から自分の部屋があって、親がなんでも言うことを聞いてくれる環境で育った人間が、そういう生活に耐えるのは大変なんです。普通だったら、もたない」

 田中は、よく先輩の標的になった。

「殴られたいと思ったことは一度もないけど、僕の場合、子どもの頃に格闘技をやっていたので、殴られることに対する恐怖心が全然ないから心は折れなかった。『どんどん殴れよ』と思っていました。『受けて立ってやる』と。このあたりの感覚は理解してもらえないと思うけど(笑)」

 野球における暴力には2種類ある。ひとつは指導者による暴力的な指導、これは時に「愛のムチ」と呼ばれることがある。もうひとつは、チーム内のストレスのはけ口が弱い者、つまり下級生に向かうケースだ。

「でも、理不尽な暴力って、世の中に必ずあるものじゃないですか。それを経験すること自体は、マイナスではないと思っています。そういうことがあると知っておくことは大事です。どうやって回避すればいいかを考えられるから」

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