阪神・糸原健斗が目指すウザい男。「相手が嫌がることをするのが仕事」 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Koike Yoshihiro

 そして、糸原といえば高校時代から「常にこの打席で死んでもいいつもりで打席に入る」と語ってきた。だが、プロでフル出場を続けるには、全打席そのような心意気では消耗が激しすぎるのではないか。そんな疑問をぶつけると、糸原は決然とこう答えた。

「そこは変わらないです。ファンのなかには、この1試合しか見られない人もいるはずです。僕の事情で手を抜くことなんてできません。だから今も、死ぬ気で打席に入っていますよ。体がデカくてポテンシャルの高い人はたくさんいるけど、僕のような小さい選手が気持ちを出して泥臭くプレーすることで、夢を見られる子どももいると思うんです」

 常に1打席に魂を込め、全力疾走を怠らず、球際の打球を飛び込んで食い止める。当然、体にはダメージがかかり、昨年9月には右足の肉離れを負った時期もあった。それでもテーピングで足を固定し、痛み止めを服用して試合に出続けた。糸原は「自分の仕事場を奪われたくなかった」と振り返る。

 一方、母校の開星高では恩師の野々村氏が68歳にして8年ぶりに監督復帰することになった。糸原は「驚きました」と笑いながらも、母校への思いを語った。

「開星が甲子園に出て、僕の本拠地で試合をするのをまた見たいです。高校時代に教わったことは、今も自分の心に置いてプレーしていますから。監督にずっと言われてきた『体は小さくても、大きいヤツには負けるな』ということと、『ここで死んでもいいつもりで打席に入る』こと。それは今も継続しています。今の後輩たちにもそんな指導をして、甲子園に出てもらいたいですね」

 体は小さくても鋼鉄のハートを胸に秘め、のびやかな一振りに覚悟を込める。阪神を支える若きキャプテンは、2020年シーズンを前にたくましさを増しつつある。

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る