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大村巌の理想のコーチング。
「オレが教えた」はNG。自発性を引き出す (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

「引退して、解説者になって2年後、二軍のコーチとして日本ハムに入団した時、一発目に球団代表に言われたんです。『ウチは"誰々のおかげ"とか、"オレが教えた"とか、そんなの評価しませんから』って。うわ、いいチームだな、と感じました。すごく僕が言いたかったところでもあり、そういう方針の球団なら大丈夫だと思えたんです」

 まさに、大村の現役時代、「お前はこれをやれ」と言われ、仮に1週間後に改善されて結果が出れば、「オレがあれを言ったからよくなったな」と言われかねなかった。「ダメなら選手の責任、よかったらコーチの手柄」とするような悪しき関係性は、今も完全になくなったわけではないが、当時はそこかしこにあった。

「でも、それは反面教師でね、こちらが勉強していけばいいので。過去のコーチがダメだ、ダメだって、僕も思った時期はあったんですけど、今は過去のコーチがすべて教えてくれたなと思います。自分が今あるのは、すべての人のおかげだなと。だから『こうしよう』という発想が出てくるし、これからもそれを実践していきたいんです」

 大村が理想とするコーチングは「オレが教えた」とは正反対。選手自身がコーチに教えられたとは気づかないまま、自発的に取り組んでいる状態にしたいという。

「コーチとしての僕の役目は、遠回しでもいいので、選手にアイデアを出してあげる。アイデアに選手が共感して、たとえば1年後、振り返った時に『あれ、自分が考えてやったんですよ』と言ってもらったら、僕の成功なんです。人から与えられたものは離れていくので、自分からやったんだという記憶になるようにしたい。だって、選手とコーチは何年かしたら離れますから、この世界は。離れた状態を前提に逆算して、自立させないといけないですから」

 そんな大村にとって、今、コーチとして最もうれしい瞬間は、選手からこれまでになかった質問をされたときだという。

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