ルーキー近本光司が阪神を変えた。武器は優れた野球脳と溢れる好奇心 (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「投手がホームに投げる時のムードってあるんですよ。反対に、けん制してくるムードというのもある。それを視野全体で見る。たとえば、セットに入ってから、よく目を凝らして見ると、徐々に軸足に体重がじわ~っと移っていくのがわかる投手もいます。スタートの瞬間も、右足を二塁方向に一歩ずらしてからスタートするんです。そうすると、体重を体の真ん中に置いていられるので、(牽制で)逆を突かれても帰塁できるんです」

 オープン戦の途中から阪神のリードオフマンに抜擢された近本は、ペナントレース50試合以上を過ぎた今もなお、「1番・センター」に定着し、打率は3割を超え、盗塁はリーグトップの16個(成績はすべて6月4日現在)。誰もが認める阪神の"新しい顔"となった。

 近本のすばらしさは、用意周到な"段取り"のよさだと思う。打つにしても、守るにしても、走るにしても、「相手にこういう傾向があって、自分の持ち味や能力がこうだから、こう対処しよう」と、"筋書き"があらかじめ用意できている。だから、試合後にプレーの意図を問われても、よどみなく説明できるのだ。

 以前、ヤクルト戦でこんな場面があった。

 売り出し中のスラッガー・村上宗隆のライナー性の打球が、左中間後方を襲った。懸命に背走した近本がフェンス手前でスーパーキャッチを見せた。

 村上の左中間からレフト方向への打球というのは、いったん真っすぐに伸びて、外野にいってから徐々に左に切れていく。レフト方向にホームランが打てる打者の打球には、そういう性質があると聞いたことがある。

 その時の近本は、まさにそのことを熟知している動きだった。いったんうしろに背走して、そこから迷いなく左中間方向へと進路を変えた。だから、最短距離で落下点に行くことができたのだ。

 また30日の巨人戦では、4-2とリードして迎えた7回の第4打席。きれいに振り抜かれた打球が左中間を破ったと見ると、スタートの2歩目から一気にトップスピードに入れて、はじめから三塁打と決めつけたような爆走を披露。続く2番・糸原健斗がレフトに打ち上げ、あっという間にとどめの1点を追加した。

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