平成元年にクロマティが残した言葉「日本の野球にはひらめきがない」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 日本の野球は、アメリカの野球とはまったく違う。日本ではミスをしたり、デッドボールをぶつけた時、「スミマセン、スミマセン」と、頭を下げるだろ。ネガティブな野球なんだ。しかも先頭バッターがヒットで出たら、バントだよ。100パーセント、バントだ。誰でも予測できる。ひらめきの必要がない野球なんだ。

 でも、アメリカの野球では、選手にひらめきが求められる。こうしたらいいというプレーが頭のなかに浮かんできて、そのプレーを選手が実行しようとする。そのためには、豊富な野球の知識を持っていなければならない。そういう選手たちが集まって野球をするから独自性が生まれて、観るものを興奮させる。アメリカの野球がアグレッシブなのは、パワーやスピードよりも、ひらめきを大事にするからなんだ。

 日本での生活を楽だと感じるようになるまで、4年かかった。僕のようなアウトサイダーが日本を理解するのには時間がかかると思う。子どもが駅までひとりで歩いて電車で学校へ通っているのにもビックリしたし、大人は仕事と家の行き帰りだけだというのにも驚いた。日本人は子どもが生まれても仕事を休まないし、奥さんをほったらかして野球中心の生活を変えない。シンジラレナイね。

 バンザイはね、最初、外野席でファンがそうしているのを見たんだ。「あれは何?」と訊いたら、チームメイトが「日本の幸せのポーズで、必ず3回繰り返す」と教えてくれた。だから、ホームランを打った時にやってみたら、ファンがビックリして喜んでくれた。だから次もやった。

 バンザイは僕と日本のファンをつないでくれた。僕は名前を呼んでもらったら、必ず手を振る。なにしろこの顔だから、どこにいても、あ、クロウさんだと気づかれる。空港でも駅でも、六本木でも、どこでも。そんな時、僕は手を振るんだ。ユニフォームを着ていても、着ていなくても、相手がドラゴンズのファンでもタイガースのファンでも、僕は手を振るよ。それが温かく僕を迎え入れてくれたことへの小さなお返しになるのなら、とっても簡単なことだからね。

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