2019.01.25

千賀、榎田…好投手を輩出し続ける
「八女の虎の穴」に潜入取材

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sportiva

 しかし、その時間差で再生される映像よりも先に、”八女の虎の穴”のボスはフォームの問題点、身体の使い方の違いをいち早く指摘する。

「グラブは親指で上げて」
「もっと前、まだまだ前に行けるよ」
「骨盤がかぶってるから返そうとしなくていい、勝手に返るから」
「ヒジを下げて、距離を作って」
「腰を横に回せば手首が立つよ」
「頑張ってインステップして」
「残したらダメ、肩を痛めるよ」
「ラインを意識して、ラインに乗せていけばそこへ行くから」

 1球ごとに声を出す鴻江の指摘を、ピッチャーたちはすぐその場で映像を見ながら確認する。すると、スローで再生されるフォームは、鴻江の言葉どおりの問題点をあぶり出す。

「鴻江先生にはいったい、何が見えているんだ」

 選手たちは一様に驚きを口にする。

 そんな言葉を聞かされて、”八女の虎の穴”のボスは、およそボスらしからぬ甲高い声で笑いながら、こう言った。

「選手たちを見ていると、おぼろげな立ち姿の中から、フィニッシュまでの映像が見えてくるんです。この立ち方の人間だったらこうやって動けば空振りが取れるボールが投げられる、というフォームのイメージが、選手たちの後ろ姿とか立ち方、歩き方から自然と頭の中に再生されるんです」

 昨シーズン、トレードでタイガースからライオンズへ移籍し、32歳にして初めての2ケタ勝利を成し遂げたライオンズの左腕・榎田は、この”八女の虎の穴”に去年から参加している。東京ガスで同期だったイーグルスの美馬学に誘われて参加した去年の今頃、榎田が鴻江から投げ掛けられた言葉の数々は、これまでの常識を覆すものばかりだった。榎田が言う。

「ヒジを下げろとか、インステップを頑張れとか、軸足に残さないで前へいけとか、腕は振るんじゃなくて振られるんだとか、先生の言葉は今までの指導とは逆のことばかり。先生はひとりひとりを見て、その人に合ったアドバイスをしてくれるので全部が全部、常識と逆というわけではないんですけど、僕の場合は、上から叩こう、ステップはまっすぐ、前へ突っ込まないように、腕を強く振ろうと意識していましたから、ホント、真逆でした(笑)。

(タイガースで)長く二軍暮らしをしているうちにあれこれ考え過ぎてわけがわからなくなっていたこともあったので、思い切って先生の言葉どおりに投げてみたんです。そうしたら、自分の思い描く軌道のボールが投げられました。身体の中でしっかり投げられたというか、自然な形で投げていた頃の感覚に近いものを取り戻したというのか……去年、先生と出会ったおかげで1年間、ケガなく投げられて、それがいい結果につながったんだと思います」