【イップスの深層】二軍で1試合登板のみ。森大輔のプロ野球は終わった (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Nikkan sports

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「よく戦力外通告を受けた選手がテレビで取り上げられていますよね。家族がいる人は大変だと思うんですけど、でも彼らは力を出し切ってクビになっているわけじゃないですか。僕は『全然つらくないじゃん』と思ってしまうんです。『下には下がおるよ!』って」

 森は失意のうちに郷里の石川県七尾市へと戻ってきた。ここで、森は人に勧められるままに左ヒジを手術している。ヒジにメスを入れたのは、横浜時代から2回目のことだった。

「いつも新しい自分に期待しているんです。投げることをしばらく休んだら、リセットされてまた投げられるようになるんじゃないかって。手術を受けて、麻酔が切れて目が覚めたときに『自分は変わったんだ』と。根拠なく思い込もうとしていましたね」

 手術を受けたのは、1年後の12球団合同トライアウトを受験するためだった。リハビリ期間中、森は大学陸上部の練習に参加し、トレーニングに明け暮れた。トライアウト3カ月前から投げ込みを始め、本番に備える。

 トライアウト当日、二軍の湘南シーレックスではなく、横浜ベイスターズの一軍のユニフォームを久しぶりにまとった森は、マウンドに上がった。極端にコントロールを乱すことはなかったが、ストレートの最高球速は128キロ。くしくも、森が高校入学直後に計測したスピードと同じだった。

128キロのピッチャーを獲ってくれる球団があるはずないですよね」

 1年間かけた挑戦はあっけなく終わった。森はトライアウトが終わってすぐ、金沢市の一般企業に入社する。毎日、運ばれてくるコンテナを下ろす作業。野球はもう忘れたはずだった。

 そんな日常が半年あまり続いたある日。いつものようにコンテナを下ろし終えた森は、両手にはめていた軍手を外し、空を見上げた。

「オレ、こんなことやっていていいのかなぁ......」

 仕事に不満があったわけではない。今、25歳の自分がすべきことは他にあるのではないか......と思ったのだ。森はその日のうちに上司に「仕事をやめさせてください」と申し出る。すると驚いたことに、上司は「その言葉を待っていた」と言った。退社する日には、社員総出で花束を持って森の門出を祝福してくれた。

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