上林誠知はイチローからの影響大。「記憶より記録でアッと言わせたい」 (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Getty Images

 昨年までは筑後市の選手寮から新幹線とタクシーを乗り継ぎ1時間以上をかけて"通勤"していた。新幹線は自由席切符のために座れないこともしばしばあった。体も大きく、ソフトバンクのレギュラーだから当然気づかれる。周りの視線も気にしなくてはならず負担だったに違いない。

 だが、チーム規定よりも1年早く退寮が認められてヤフオクドーム近くに居を構えた。心身ともにコンディションづくりがしやすくなったと話していた。

 今季はポストシーズンでも確かな存在感を示した。CSファイナルの第3戦では先制3ラン、中前適時打、右中間2点三塁打を放ち計3安打6打点の大暴れだ。

 日本シリーズは第1戦で6打数ノーヒット、4三振。第2戦は体調不良で今季初めての欠場と最悪のスタートを切ったが、第4戦で広島の野村祐輔からシリーズ1号先制2ランを右翼席へ運び勝利に貢献してみせた。

「僕、運はある方。持ってる男だと昔から思ってます」

 どれだけ会心のホームランを放っても、クールな表情のままベースを1周する。モットーは「野球に笑顔はいらない」だ。なのに、時々、思わず「エッ」と聞き返したくなるような言葉をさらっとぶち込んでくる。

 それが上林という選手だ。

「イチローさんに完全に影響を受けています。子どもの頃から打っても平然としていました。だって野球って毎日試合があるし、一喜一憂をしていられないですから。だからイチローさんもそうやっているんだろうなと思って見ていました。周りからは『感情ないね』って、ちょっと批判的に言われることもあります。実際はそんなことないんですけど......」

 今年の日本シリーズ。じつは内心では闘志をメラメラと燃やしていた。

「誠也さんには負けたくないんです」

 広島の鈴木誠也は、オフに自主トレをともに過ごす仲間でありライバルだ。

 上林は第4戦でヒーローになった試合後の囲み取材でも、強烈な対抗心を包み隠さず口にしていた。

「あの人が打ちまくるから負けてられないなと思っていた。(前日2本塁打、この日も1本塁打で)今日も"打ちやがった"し。明日は眠ってくれることを願います」

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