森祇晶が野村克也の采配に疑問。「なぜ秋山幸二と勝負だったのか」 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

1992年第7戦、石井丈裕に代打を送らなかった理由

―― 一流の剣豪同士が向き合ったまま、お互いの隙を探りながらピクリとも動けない状況に似ていますね。

 野村さんとの戦いではむやみに動いてはいけないし、ハッキリ言えば「動けない」ということでもあります。僕にとっても、とてもいい勉強になったよ。たとえば1992年の優勝を決めた試合で、石井丈裕が打席に入った場面がありましたよね。

――1992年第7戦、得点は1-0でスワローズがリード。7回表2アウト1、2塁の場面ですね。同点に追いつきたいところでしたが、ライオンズは代打を使わずに、好投していた石井丈裕投手がそのまま打席に入りました。

 あの場面で、石井丈裕にピンチヒッターを出さなかったでしょ。もしも、この試合を落として日本一を逃したら、「何で代打を使わないんだ」と非難を浴びることになる。でも、シリーズも7戦までくると、こちらのリリーフ陣も疲れが溜まっているわけですよ。ここでむやみに(石井を)代えて、相手打線の餌食になるのなら、「8回の攻撃は一番バッターからだ」と割り切って代えない方がいい。そう考えたんだね」

当時を振り返る森氏 photo by Hasegawa Shoichi当時を振り返る森氏 photo by Hasegawa Shoichi――結果的には、石井丈裕選手がセンターに飛球を打ち上げ、それがセンター・飯田哲也選手のグラブをかすめて同点打となりました。

 このヒットは望んだわけでもなく、期待したわけでもない。そもそもバッティング練習のときから、彼の場合はバットに当たる確率が非常に低かったんだからね。でも、それがヒットになる。それが野球だよな。そして、1-1の同点になった後、8回裏に1アウト満塁のピンチを迎えた場面では、辻(発彦)が見事なプレーを見せて三塁ランナーの広澤(克実)をアウトにした。そうそう、延長戦になった10回表の攻撃も印象深いなぁ。

――1-1の同点のまま延長戦に突入しても、ライオンズは石井丈裕、スワローズは岡林洋一両先発投手が依然としてマウンドに立ち続けていました。

 10回表、先頭の辻が2ベースヒットで塁に出た。二番の大塚(光二)がバントで送って1アウト三塁。この場面で、僕は「三番打者の秋山(幸二)は敬遠されるだろう」と思っていました。そのとき、四番の清原(和博)はベンチにいた。四番には守備固めとして奈良原(浩)が入っていたからね。だから、「当然、敬遠だろう」と。

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