高橋由伸が辞任。名コーチが語る
長期政権の難しさと監督の消費期限
名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第29回
プロ野球にとっての10月は、クライマックスシリーズ、日本シリーズといったポストシーズンが佳境を迎えるが、その一方で来季に向けた人事のシーズンでもある。先日、巨人の高橋由伸監督が辞任し、オリックスの福良淳一監督も今シーズン限りで監督を辞めると発表した。また、シーズン途中には楽天の梨田昌孝監督も休養し退団。このほかにも去就に注目が集まっている指揮官はいるが、いずれにしても監督という職業はシビアなものだ。
その監督という仕事を、選手やコーチはどのように見ているのか。あえて「監督の消費期限」というものがあるなら、果たしてどのくらいのものなのか。選手、コーチとして50年以上もプロ野球の世界に携わってきた伊勢孝夫氏に「監督の消費期限」について語ってもらった。
今シーズン限りでの辞任を発表した巨人・高橋由伸監督 消費期限――すいぶんと思い切った表現だが、しかし、どんな監督でも「そろそろ限界だな」と感じることはあった。よく私は、ヤクルト時代のノムさん(野村克也氏)をたとえ話に出させてもらっている。もちろん感謝もしているし、尊敬もしているが、「あぁ、そろそろかな......」と思うことはあった。これはノムさん個人の問題というより、監督という仕事、立場の構造的な問題ということだ。
先程、消費期限と言ったが、その中身は監督としての求心力である。それがどれだけ持続するかどうかが問題なのだ。不思議なもので、これは勝敗や順位に必ずしも比例するものではない。もちろん負けが込み、チームが低迷すれば監督の求心力は落ちやすい。だが、勝っていてもそうなる場合はあるし、逆に負けていても選手がついてくることがある。
これはチームの体質や監督の置かれた立場にもよるから一概に言えることではないが、ただ求心力を失った監督のチームは、落ちていくのが早い。
では、野球界における求心力とはなにか。選手の立場からすれば「勝たせてくれる監督かどうか」のひと言に尽きる。現金なものだが、選手にとっての監督の基準はそこにある。
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