名コーチが語るプロ野球のサインとは、
「大事な局面で施す隠し味」 (2ページ目)
ヤクルト時代の野村(克也)監督は、こうしたベースコーチからの希望も聞いてサインをつくっていた。ただ、サインが送られてきたからといって必ずしも応じるわけではない。「あかん。行くな」と野村監督が言えば、松井(優典)ヘッドコーチが急いでベースコーチャーに「走るな」のサインを出す。
ちなみに、このときはフラッシュサインではなく、ブロックサインで伝えていた。ベンチの動き、特に監督のそばにいるヘッドコーチは、常に相手から見られており、フラッシュサインだと読まれる可能性があるためだ。
野村監督といえば、1球ごとに作戦を考える性格で、グリーンライトも足の速い飯田哲也ぐらいで、ほとんどがディス・ボールだった。カウントにより投手の配球も心理も変わる。それを織り込めば、1球ごとにサインが変わるのは当然といえる。
ただ、ご存知のように野村監督はしょっちゅうベンチでぼやいている。「次、ボールやったらエンドランかけても面白いかな」「そろそろ(投手を)代えんといかんな」というのは日常茶飯事。そんなぼやきのせいで、こんなことがあった。
ある試合でいきなり走者が走り、あえなくアウトに。怒り顔で野村監督が松井ヘッドに「勝手にサインを出したんか?」と問い詰めると、「監督が『ボールになったらランナーを走らそうか』と言ったから......」と返した。すると「それも面白いかなって、独り言を言っただけや!」と。こんなやり取りは、一度や二度ではない。逆に、独り言と思ってサインを出さずにいると、「なんで出さないんだ!」と激怒したこともあった。
こうしたことは、ほかのチームでも多かれ少なかれあるのではないだろうか。だから監督は言葉ではなく、サインを出す役目のコーチに指で指示することがある。たとえば、指3本なら盗塁とか、指2本ならバントとか。
これは余談だが、テレビなどで監督が帽子やベルトなどを触ってサインを出しているような仕草をしていることがあるが、あれはほとんどがダミーだ。本当のサインは、コーチや選手が出す。試合にそれほど出場していない若手選手を使うケースもある。
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