ローテ死守の葛藤を超えて...。
DeNA井納翔一「優勝への配置転換」

  • 村瀬秀信●取材・文 text by Murase Hidenobu
  • 小池義弘●撮影 photo by Koike Yoshihiro

 2018年のキャンプ中盤。インタビューで横浜DeNAベイスターズの井納翔一は「今年はもう一度気持ちを入れ替えてイチから勝負する」と繰り返していた。

 プロ入りして5年間で34勝。右の先発投手としてチームを支えてきたが、井納自身はこれまで納得した年は一度もなかったという。ついて回るのは、もっとやれるという思いと自分への不甲斐なさだった。

「先発ピッチャーである以上、チームに勝ち星をつけるのが役割です。そういう意味で僕はチームに貢献できていませんでした。特にこの2年間は負け数も2ケタですし、情けない思いでしかないんです。このままではいけない。

 結果を残せていればこのままでいいですよ。でも僕の場合は何かを変えなければいけなかった。だから、今シーズンは、もう一度頭から気持ちを入れ替えて、ローテを取りにいこうと思ったんです。200イニングでも2ケタ勝利でもない。がむしゃらにローテーションを勝ち取りにいく。それだけを目標にしました」

今季は「7回」を任されることになった井納翔一今季は「7回」を任されることになった井納翔一 毎年ローテーションに入り、チームを代表する右投手でありながらも"エース"としてはその名が呼ばれない。それでも、ひと昔前は「5勝でエース」と言われることもあったベイスターズで、2014年に三浦大輔以来となる2ケタ勝利を挙げた。同年にはDeNAで初、チームとして5年ぶりの投手月間MVPも獲っている。一昨年のCS、昨年の日本シリーズと大舞台の初戦を任されたのもこの男。そう、DeNAベイスターズ投手陣の新しい扉は常に井納が開いてきたのだ。

「ありますねぇ。球団にとって初めては。まあそういうのを僕、持っているんですかね」

 だがしかし、井納はエースとは呼ばれず、不思議な"イノーさん"のままだった。大一番で目の覚めるようなピッチングをしたかと思えば、次の試合で別人のような内容になることもある。開幕投手には指名されなかったが、山口俊の代役で務めた開幕投手やオールスターではキチンと役割を果たす。凄いのに凄くない。ベイスターズ投手陣には絶対に必要。でも絶対視はされない。井納とは、そんなもどかしくも形容しがたい存在となっていた。

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