「何を打てばいいですか?」という選手に、スコアラーはどう答えるか (2ページ目)

  • 市來孝人●文 text by Ichiki Takato
  • photo by Tomohiro Akutsu

 志田氏は2001年のドラフト8巡目指名で青学大からヤクルトに入団。現役時代は外野手として9年間プレーした。現在の仕事につながる経験として古田敦也氏の存在を挙げる。

「当時、古田さんはスーパースターで、僕は控え選手。野球についていろいろと話を聞きたかったのですが、話しかける勇気がなかった。それでもベンチや遠征のバスでは近くに座ったりして、どんなことを話しているのか盗み聞きして、そのたびにメモを取っていました。あのとき、いろんな話を聞いておいてよかったと、今になって強く思います」

 日本のプロ野球とは違い、WBCやプレミア12などの国際大会で最も重要なことは「どこまで(相手に)バレているかを知っておくこと」だと語る。

「一生懸命、相手のことばかり分析していると足元をすくわれます。それよりも相手が日本のことをどのくらい分析しているのかを知ることが大事。そこがしっかりしていなければ本番で勝つことは難しいと思っています」

 たとえば昨年のWBCでのキューバ戦、「相手は日本を分析していないだろう」という想定で臨み、実際その通りだったという。

 一方、オーストラリアとの対戦では、日本のことを分析されているのかいないのか、最後までわからず2つのプランで挑んだ。そして試合が始まってすぐ「これは日本をよく研究している」とわかったため、分析されている前提の戦略でいこうと決断が下された。国際試合ひとつとっても、そのような舞台裏の攻防があったのだ。

 最後に、「大谷翔平のボールを打つにはどうすればいいか?」という問いについて、スコアラー目線から志田氏はこのように答えた。

「大谷投手はデータを超越したテクニック、フィジカル、メンタル......正直、データでは届かないところにいってしまっている。普通なら、大谷投手の弱点を見つけてどうすれば打ち崩せるかを探るのですが、それよりも相手打線をどうすれば抑えられるかということに時間を割きます。

 大谷投手の登板の試合はロースコアで乗り切って、大谷投手が降板した後に出てくるピッチャーを打ち込むというゲームプランを立てます。つまり、"大谷を打ち込む"ことを目的とせず、"試合に勝つこと"を最優先する。スコアラーにとって大切なことは、臨機応変に戦略のフォーカスを変えていくことなんです」

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