わずか1勝の剛腕。それでも楽天・安樂智大は信念を曲げずに復活を期す (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 周囲の非難めいた声が脳裏によみがえる。

「投げ込みをしすぎるとケガをする」
「ウエイトのやりすぎなんじゃないか」

 高校時代から肩やひじを故障する度に、そんな声が耳に入ってきた。今でも過度な練習を指摘する人間はいる。

 けど――。達観したような表情を浮かべながら、安樂は持論を述べていた。

「僕は『言われても仕方がない』と受け止めています。結果が出ない以上は言われるもんだと思っていますし、成績を残せれば誰ひとり文句を言わないと思うんで......。『自分はこれをやる!』と信じて積み重ねてきているものを変える気はまったくないですね」

 だが、結果的にこの故障が、昨年の安樂のすべてとなってしまった。

 6月に復帰を果たしたが、オープン戦まで見せていた安定感と余裕がない。抑えよう、強い真っすぐを投げよう......そう思えば思うほど力んでしまう。外角を狙ったはずのボールが甘いコースにいき、痛打される。安樂本来の、制球力を生かした投球が影をひそめる。

 チームは首位を争い、先発投手陣も駒が揃ってきた。なにより、高卒ルーキーの藤平尚真が後半戦から先発ローテーションに加わり、それこそ2016年の安樂のように躍動した。

 焦燥感――安樂は、それを制御することができなかったと言う。

「チームの調子がいいなかで、自分がその場にいない悔しさはもちろんありましたし、気持ちの部分での焦りが一番大きかったと思います。そのせいでフォームを崩してしまい、技術的な部分にも表れてしまった」

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