明かされる日本シリーズ秘話。野村「ID野球」の陰に仰木監督の友情 (3ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Kyodo News

 すると面白いもので、投手ひとりひとりの像が、おぼろげながらに浮かんでくる。同じ真っすぐでも、丁寧に四隅を突いてくるタイプもいれば、開き直ったようにど真ん中に投げてくるタイプもいる。ほかにも、走者なしで変化球を多投するタイプ、得点圏に走者を置いてからスイッチが入ったかのように力勝負をするタイプなど、投手によってまったく違う。

 当然、限られたデータの中のことなので、それだけで決めつけることはできない。あくまで"ぼやっ"と浮かんでくる程度だ、しかし、この"ぼやっ"というのが、むしろ大事だと思っている。

 阪急の監督として黄金期を築いた上田利治氏は生前、「データを収集することは大事だが、捨てることはもっと大事」という言葉を残している。莫大なデータの中から、本当に大事なポイントだけを拾い上げる。要するに、シンプルでなければ瞬時に流れが変わる短期決戦では対処できないというのだ。

 近年は交流戦もあって、相手チームのデータは映像も含め、簡単に手に入れることができる。だが、実際に試合をするのは選手たちだ。データはあればあるほど精度は高まるが、絶対ではない。データに頼りきってしまうと、逆に対応力が鈍るケースもある。

 打者でも「80%くらいの確率なら狙わない」というタイプの打者もいる。逆に、50%でもデータを信じて勝負にいくタイプもいる。繰り返しになるが、試合をするのは選手たちだ。データは手助けに過ぎない。ただ、使いようによっては好結果につながるということを選手に思わせることも大事なのだ。

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