手術から1541日の空白。それでも荒木大輔は、もう一度投げられた (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

──そして荒木さんが一軍のマウンドに戻ってきたのが1992年9月24日、神宮球場での広島戦です。1541日ぶりの復活劇に勢いを得て、この年のスワローズは14年ぶりのリーグ制覇を果たしました。故障する前と後とでは荒木さんに変化はありましたか。

「以前は『勝ちたい』『いいピッチングをしたい』という思いが強かったのですが、復帰してからは投げること自体が楽しい。少しも怖さを感じなくなりました。それまではピンチになったときに『どうやって切り抜けよう』『打たれたらどうしよう』と考えていたのに、すごいバッターと対戦するのが楽しくなりましたね。『こんな場面で落合博満さんと対戦できるのか』『オマリーを抑えることができたらすごいな』......と」

──純粋に野球をすることが楽しくなったのでしょうか。

「そうですね。野球を始めたばかりの頃に戻ったようでした。高校時代までは『楽しい』という気持ちが少しありましたが、プロになってからはそんな余裕はなくなっていました。でも、復帰してから引退するまでは、『打たれたらどうしよう』『負けたらどうなるか』などとは一度も考えませんでしたから」

──復帰したシーズンにヤクルトはセ・リーグ優勝、翌年はセ・リーグ連覇を果たし、日本シリーズでは前年敗れた西武ライオンズを下して日本一になりました。

「リハビリをしているときには、自分のいるチームが優勝することなんて、まったく想像もしていませんでした。それまでのチームの状況を考えたら、とても、とても。『シーズンではできないから、ここでやろう』と言って、焼肉屋さんでビールかけをするようなチームでしたから(笑)」

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