菊池が、筒香が......若き日の侍たちが見せていた「大器の片鱗」秘話 (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 1回表、先頭打者として打席に入った田中は、初球のインコースストレートを見事な軸回転のスイングで振り抜くと、打球は一直線のライナーとなって右中間最深部のフェンスを直撃する三塁打となった。試合後、田中はこんなコメントを残している。

「唐川の目が真っ赤で、顔が怖かった。絶対にストレートだと思った」

 18歳にして、この感性と1球で仕留める技術。すでに立派な"勝負師"であった。

"勝負師"という言葉を聞いて、忘れることができないのが横浜高時代の筒香嘉智(DeNA)だ。

 当時、筒香は誰もが認める高校ナンバーワンスラッガーだった。その筒香が、やはり当時、高校ナンバーワン左腕と評されていた花巻東高の菊池雄星(西武)と対戦すると聞いて、試合が行なわれるベイスターズ球場(横須賀)に駆けつけた。

 だが、試合前の練習に筒香の姿がない。シートノックが始まってもダグアウトに控えたままだった。「故障でもしたのか......」と思っていたら、試合には「4番」で出場した。

 第2打席、菊池が投じたカーブがストライクゾーンから低く沈んで、私の目にはショートバウンドしたように見えたその瞬間、ほぼ右手一本でボールを拾うと、打球はライトポール際のネットに突き刺さった。

 ゆっくりとダイヤモンドを周り、ダグアウトに戻った次の瞬間、小倉清一郎部長(当時)が筒香を車に乗せ、どこかへ消えていった。あとで聞いたら、この日、筒香は38度台の高熱があったという。それでも、今日を逃したら菊池といつ対戦できるかわからないと、点滴を打って志願の強行出場を果たしたのだった。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る