石井弘寿、悲運のWBCマウンドも「自分の決断なので後悔はない」 (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

──リハビリには忍耐力が必要です。

「インナーマッスルのトレーニングはものすごく地味です。本当に鍛えるべきところに刺激を与えながら、慎重に慎重にやらなければなりません。外側の筋肉は鍛えれば鍛えるだけ大きくなるので、体の変化に達成感を感じます。でも、内側にある腱を鍛えても、成果がわかりにくい。やり方も難しくて、少し体勢や負荷のかけ方が違うだけで他の部位で代償してしまうので、効果がなくなってしまうのです。わずか500gや1kgの負荷でも、正しいやり方をしたら本当にしんどい。集中力が必要なので、自分ひとりではできません。誰かに鍛えるべきところを触れながら刺激してもらい、そこを意識しながらゆっくりとトレーニングしました」

──知らない人からすれば、「それが練習なの?」と思われたかもしれません。

「引退するまで、ずっと形の違う不揃いな石ころを丁寧に積み上げていくような毎日でした。地味なトレーニングを続けて、キャッチボール、ブルペン投球をクリアして、やっと試合で投げられるようになります。ところが、おかしなところに力が入ったり、体のバランスが悪かったりすると、積み上げた石ころは崩れてしまいます。そうなれば、またはじめから」

──一軍のマウンドは遠く感じたでしょうね。

「状態が悪くても、普通の選手なら1、2週間で立て直せます。でも、僕の場合は2、3カ月もかかりました。その繰り返しです。投げられない、野球ができないということほど、プロ野球選手にとってつらいことはありません。そのとき心の支えになったのは、家族とファンの存在でした。一軍でまたファンの声援を受けたい、あのマウンドに戻りたい、復活した姿を見てもらいたいと思っていました」

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