引退した元巨人・加藤健が語る、18年の控え捕手人生と「あの死球」 (5ページ目)

  • スポルティーバ●文 text by Sportiva 寺崎江月●協力
  • photo by Kyodo News

──当たった感触はあったのですか?

「顔にボールが来ていたし、バントの構えからよけようとしたバットがヘルメットに当たったんだと思います。(場内の)ブーイングは聞こえました。映像を見て、逆の立場で考えれば僕だってブーイングしたと思います。でも、僕も審判の方をだますつもりはなかったですし、あの時は一瞬で頭が真っ白になってしまった。あの試合以降、多田野投手だって指先の感覚が狂ったかもしれない。審判の方も僕のせいでジャッジに迷いが出るようになったかもしれない。リズムを狂わせてしまい、迷惑をかけてしまった」

──試合中、ヤジ以外で反応はありましたか?

「次の打席(安打で出塁)でもヤジは聞こえました。でも、二塁に進んだ時に日本ハムの金子(誠)さんと飯山(裕志)さんがいて、"カトちゃん、ナイスヒット"とか、"おう、カトちゃん"と声をかけてくださった。飯山さんはファームで試合をやった思い出もある方。僕は"すいません"というのが精一杯でした。金子さん、飯山さんに声をかけてもらったのですごく楽になったというか、救われた。立ち直るのにいろんな人が、かかわってくれました」

──この件については、これまでコメントしてきませんでした。引退を機に話そうと思った理由は?

「ユニフォームを着ている間は何を言っても言い訳になります。一方で自分は逆の立場というか、相手の気持ちになって物事をとらえながら成長してきた。これから第2の人生をスタートしていく中で、いろんな人に逆の立場になって話をしたり、考えたりすると思う。それなのに、あの試合のあの場面を自分のポケットに詰め込んで新境地に向かう気持ちにはなれなかった。今さらと思われるかもしれないですけど、僕の中で5年もの間、ずっと引っかかっていた。忘れることがない試合です」

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