広島の名スカウトが惚れ込んだ男・加藤拓也は「ポスト黒田」となれるか (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

 高校時代はスリークォーターで投げていた加藤だったが、今は真上から投げ下ろすようなフォームになり、ボールに角度がつくようになった。また、体を縦に使うため、スライダーやスプリットなど、落ちる系の変化球も落差が増した。ウエイトトレーニングによって縦軸を伸ばし、フォーム修正によって横軸を伸ばした結果、加藤は投手としてのスケールをどんどん広げていった。

 こうした成長が加藤の評価を高めたことは間違いないが、実は広島の苑田スカウトがもっとも評価していたポイントはプレー以外の面にあった。今春、苑田スカウトは加藤のこんなエピソードを教えてくれた。

「加藤くんは神宮球場で試合があるとき、渋谷駅からひとりで球場まで歩いているらしいんですよ。群れずにひとりでよく練習するらしいしね。ピッチャーらしい、いいハートを持っているなと思いますよ」

 慶應大野球部は東京六大学リーグのチームとしては珍しく、バス移動による団体行動をせず、神宮球場のロッカールームに現地集合する。チームメイトと連れ立って最寄り駅の外苑前駅から球場入りすることもできるなか、加藤はあえて渋谷駅から神宮球場まで3キロ近い道のりを単身歩いて通っていたという。

 加藤にわざわざ歩いて通った理由を聞いてみた。

「みんなで一緒に行くのもな......という思いもありましたし、いろんな理由がありました。歩くことで体のバランスがよくなって、体が動いてくることを実感できますし、メンタル的にも不安に思うことを消化する時間にしていました。渋谷駅から音楽を聴きながら、30分くらいかけて歩くんです」

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