FA宣言→テスト入団。なぜ木村昇吾はハイリスクを選んだのか (3ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Kyodo News

 代役ではあったが、木村はプロで初めてレギュラーとして試合に出る喜びを知った。野球人としての本能が突き動かされた。ただ、翌シーズンになると再び「切り札」という立場に逆戻りした。25人しかないベンチ入りメンバーの中で、守備力と脚力、さらに経験値もある木村をベンチに残しておくことは作戦面で理解できる。それでも、首脳陣からの評価が高まる一方で、野球人としての本能を抑えきれない木村がいた。

 14年にFA権を取得した木村は行使も頭をよぎったが、「(遊撃手の)競争ができる」という言葉に残留を決めた。だが、開幕前から遊撃手は若い田中広輔が座り、木村のポジションは例年と同じ「途中出場の切り札」だった。

 どの世界でも、本人と周囲の価値観には大なり小なりの違いがある。木村がFA権を熟考した理由もそこにあった。

 今年の4月で木村は36歳になる。限られた野球人生を考えれば、切り札という役割を極める道が妥当であり、最善のようにも思える。実際、巨人の鈴木尚広のように“足のスペシャリスト”として一芸を極めた選手もいる。広島でも代走の赤松真人や代打の小窪哲也などが、それぞれの役割をまっとうしている。だが木村は、途中出場の切り札ではなく、あくまでレギュラーにこだわったのだ。木村は言う。

「常にレギュラーで出ていた選手であれば、現状にも満足できたかもしれない。でも、シーズンの半分ぐらいしかスタメンで出られないからこそ、よりスタメンで出たいという思いが強いのかもしれない。周りはもう36歳と言うかもしれないけど、自分の中では毎年、自分を更新している手応えがある」

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