現役引退の谷佳知が語った「残り72本よりも大切なもの」 (2ページ目)

  • 楢崎豊(報知新聞社)●文 text by Narasaki Yutaka
  • photo by Kyodo News

 しかし、プロ生活の始まりは順風満帆とは言い難かった。即戦力として入団しただけに、結果を出さなくてはならないという焦りもあった。キャンプでのバットスイング中、左手の中指に突然、これまで感じたことのない痛みが走った。力を入れるだけでも痛むため、バットを握ることもできなくなってしまった。

「バネ指(指の腱の炎症)といわれるやつだった。どうしようかと思った。1年目なのに、もう野球を辞めないといけないのかとも考えた」

 中指が握れないため、親指と人指し指に力が入りづらい。だから、「左手は薬指と小指の2本しか使えなかった」という。ケガの影響もあり開幕一軍は逃したが、それでも練習を休むことはしなかった。

「ケガのことは周囲に言えなかったし、言う必要もないと思っていた。結局、最後まで治ることはなかったね。でも、もしかしたらいい形で力が抜け、バットを振れていたのかもしれない」

 一軍に昇格し、プロ初出場を果たしたのは5月末。谷はそこから秘密を抱えたまま、ヒットを重ねていった。

 07年にオリックスから巨人に移籍し、13年までの7年間で5度のリーグ優勝に貢献した。しかし、年々、出場機会は減っていった。そして楽天の日本一で終わった13年の日本シリーズ第7戦のあと、「来季の契約は結ばない」と通達された。

 巨人時代、もう少し出場機会が増えていれば、2000本安打という大記録を達成していたのかもしれない。しかし、谷は首を横に振った。

2 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る