2年連続2ケタ勝利も阪神・藤浪晋太郎が喜べないワケ (2ページ目)

  • 岡部充代●文 text by Okabe Mitsuyo
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 そして9月26日の広島戦(甲子園)で前年を超える11勝目を挙げた時もそうだった。

「特に何もないです。内容が良くなかったので(6回6安打3失点)。ただ、野手の方や他の投手に付けてもらった勝ちです。もっと野手の方から信頼してもらえるピッチャーにならなきゃいけないと思います」

 思えば、藤浪はいつも淡々としている。甲子園で春夏連覇を達成した大阪桐蔭高時代から、常に多くの報道陣に囲まれ、慣れてしまったのかもしれない。ちょっとしたことでも大きく取り上げられる関西のマスコミを警戒して、あえてそのように振舞っているのかもしれない。そんな藤浪が、いつもと違う空気を出していると感じることがあった。

 ソフトバンクとの日本シリーズ第3戦、ヤフオクドームで敗戦投手となった時のことだ(5回2/3、3失点)。試合後は「日本シリーズの独特の緊張感があったか」との問いに、「気持ち的には序盤から飛ばしていきましたけど、何かに左右されたということはないです」と毅然(きぜん)として答えていた。レギュラーシーズンで負けたとき以上に厳しい表情ではあったが、それでもまだ「いつもの藤浪」だったように見えた。

 しかし、翌日の練習上がりにあらためて自身初の日本シリーズでの登板について尋ねてみると、「調子自体は悪いと思わなかった」と、少し憮然として答えた。「1日経ってみて、やっぱりいつもの自分とは違うと感じた部分は?」と食い下がる記者に「特にないです。シリーズだからといってないです」と。

 声を荒げたわけではない。ただ、いつもならもっと淡々と、誤解を恐れずに言えば、「悔しくないのか?」とうがった見方をしてしまいそうになるほど冷静に話すのだが、その日は記者とほとんど目を合わせることもなく、ぶっきらぼうに言葉を発した。

 やはり、悔しかったのだ。巨人とのクライマックス・シリーズ(CS)では昨年の借りを返して勝利したものの、その上の舞台では勝てなかった。味方の援護がなかったとはいえ、初回から失点し、四球や暴投で追加点を与え、さらにピンチを招いてイニング途中で降板した自分が許せなかったのだと思う。

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