16年ぶり貯金10。「鯉の季節」にカープファンは何を思う? (5ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

 この日の試合、広島は初回に3点を先制するなど、3回までに5点リード。ライトスタンドと一塁側以外は早くもお祭り騒ぎで、仕事を終えたスーツ姿の男性や女性たちが息を切らしながら自分の席を探している。

「かっとばせー、キクチ、それキクチー、キクチー」

 横に座った会社から球場直行の男性は、ビジネス鞄から赤色のユニフォームを取り出すとスーツの上に着こみ、すぐに試合に参加。バット型メガホンを叩き「キクチー、それキクチー」とカープの名物応援である“スクワット”で立ったり座ったり忙しい。

 その楽しそうな姿に前出の熊本さんの言葉が思い出される。

「カープのことを毎日考えると気持ちが和むんです。今は仕事があんまりうまくいってないので(笑)」

 レフトスタンド、3塁側席、バックネット裏からは次々と明るい会話が飛び交っている。

「交流戦前に貯金をたくさんしないとね」
「9月の横浜スタジアムのチケット抑えなきゃ」

 エルドレッドが高めのボールをこらえて見逃すと、「去年だったら振ってたよね」と。

 そしてサードを守る堂林に打球がいくたび、「大丈夫かな」と多くのファンがヒヤヒヤし、無事アウトになると「ああ、アウトになった」「今のは良かったね」と温かい拍手を送るのだった。

「東京でも、ホームにいるかのような声援をもらえる。時には本拠地のマツダスタジアムより多いんじゃないかと思うこともあります。ファンの声援は勢いに乗っていける雰囲気を作ってくれるんです。選手のみんなは本当にファンに感謝しています」(廣瀬)

 そして廣瀬はスタンドを何度か見渡して、腕を突き上げた。

―― 貯金も増えて、快調に首位。優勝を意識しますね。

「優勝とかを考えるのはまだ早いですから。いい時期もあればキツくなることもあります。いま勝っているからといって、チームが浮かれることはありません。ひとつのミスで流れが変わることも知っていますし。投手陣のおかげで今があるので……特に中継ぎはすごく頑張ってくれている。でも、その反動は絶対にくると思うので、その時は野手たちでカバーしていこうという気持ちです。今は目の前の試合をひとつひとつ戦っていくだけです」(廣瀬)

 そして4月24日の試合も9対2でヤクルトに快勝し3連勝。貯金はついに16年ぶりに2ケタに到達した。今日からホームのマツダスタジアムで、2ゲーム差で2位につけている巨人を迎え撃つ。「鯉の季節」はいよいよ本番を迎える。

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