細山田武史「もう一度、人生を賭けてみる」 (2ページ目)
シーズンに入ると、1年目ながら一軍の捕手として88試合に出場し、プロの世界でも十分に戦っていけるところを証明してみせる。
正直な話をすると、細山田はプロ野球選手としては決して身体能力が高いとは言えない。パワー、肩の強さはプロの捕手として決して強い方ではない。課題とされている打撃でも、思うような結果を出せずにいた。それなのになぜ、多くの試合に使われるのか不思議に思う人もいたはずだ。私もそのひとりだった。
ある時、私は細山田とともに二軍の試合に出場したことがあった。私はファーストとしてその試合に出場していたのだが、初めて細山田と同じグラウンドに立った時、その理由がわかった気がした。投手への気配り、配球を含めたリード、野手への的確なポジショニングの指示など、試合をコントロールする技術が抜群に優れていたのだ。
試合後、その試合でショートを守っていた梶谷隆幸と、「細山田さんが一軍で試合に使われる理由がわかったね」と話し合ったことを覚えている。
だが、ここ2年間は二軍の試合でも出場機会に恵まれず、今季出場したのはわずか6試合。しかし、自分がどんな状況であってもいつも変わらずに準備をし、練習に励み、ナイターの日は昼から横須賀(二軍練習場)で打ち込み、トレーニングも欠かさない。やれることはすべてやる。そういう選手だ。
そんな細山田であったが、今年10月に戦力外通告を受ける。トライアウトに参加するということで、私も現地に出向いた。私自身が昨年参加をしていたので、雰囲気や心境は誰よりも理解できる。
トライアウトは、投手は4人のバッターと対戦して交代する。参加する投手は20~30人いるのに対し、捕手は3~4人と少ない。もちろん、普段は一緒にプレイをしていないので、この投手がどういうピッチングスタイルで投げてくるのか、どれくらい球が速いのか、そもそも球種すら知らない。そういう投手を何人も受けていかなければならない。急造でサインを決めて、本番に臨む。
私も昨年のトライアウトに捕手として参加したので、この作業の大変さは身にしみて分かる。投手にとっては最後の投球になるかもしれないので、要求するボールはアウトコース低めのストレートと、一番自信のある変化球、ほとんどこのふたつ。正直、投手のことを考えている余裕などなかった。
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