経験者が振り返る「プロ野球トライアウトの1日」 (3ページ目)

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki
  • 佐賀章広●写真 photo by Saga Akihiro

 小関氏は2007年にジャイアンツから戦力外通告を受け、トライアウトに参加した。そこで2本のホームランを放ち、横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)への入団を決めた。そこで私は小関氏と知り合うことになり、一緒にプレイしたのはわずか1年だけだったが、その後も何かと気にかけてくれた。そして私がトライアウトを受ける直前に、先述の言葉をかけてもらったのだ。

 そのおかげで、私も最後になるかもしれない真剣勝負を心から堪能し、Kスタ宮城の左中間最深部にホームランを打つことができた。このトライアウトが野球人生の中で最も素晴らしい時間だったと思えるぐらい、最高の集中力が発揮され、最高の一瞬を味わうことができた。

 グラウンドではまったく緊張することがなかったが、大原淳也選手(現・独立リーグ、香川オリーブガイナーズ)とテレビスタッフとともに仙台から東京へ帰る車の中はさすがに緊張した。「連絡があるなら当日中」という噂があったため、私は携帯電話を握りしめ、その時を待った。実際、何度も電話は鳴った。そのたびに車中は大騒ぎとなったが、相手はアメリカの球団、独立リーグ、社会人野球......。もともとNPB以外でプレイすることは考えていなかったので、すべて保留にさせてもらった。結局、NPBの球団からは声がかかることはなかったが、あの車中の緊張感というものは、何度でも味わいたいと思うくらい、期待と不安が見事にイーブンで交錯した空間だった。

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