経験者が振り返る「プロ野球トライアウトの1日」 (2ページ目)

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki
  • 佐賀章広●写真 photo by Saga Akihiro

 そもそも、トライアウトを受けて合格する者はほとんどいない。昨年も58人の選手がトライアウトを受けたが、合格したのはわずか6人(うち4人は育成選手として契約)と、非常に狭き門なのである。しかも合格者の中には、事前に連絡を受けていて、いわば「合格内定」の状態で参加している者もいる。もちろん、参加する選手はその現状を理解している。実際、私も昨年、横浜DeNAベイスターズから戦力外通告を受け、ある程度の事情はわかっていたがトライアウトに参加することを決めた。

 私がトライアウトを受けたのはちょうど1年前、場所はKスタ宮城だった。参加してまず感じたことは、報道されているような、また、イメージしていたような悲壮感や絶望感などは微塵もなかったことだ。私などは、これが最後になるかもしれないという思いもあり、いわば引退試合のような気持ちで臨んでいた部分もある。どうせ受けても無理だろうという気持ちよりも、最後の試合を楽しもうという思いがはるかに強かった。

 そうした気持ちになれたのは、あるトライアウト経験者の方に話を聞かせてもらったからだった。その経験者とは、現役時代に西武などで活躍し、現在は巨人の二軍コーチを務めている小関竜也氏である。その小関氏との会話の中で、心に残ったひと言があった。

「確かに焦りはあったんだけど、打席に入ってピッチャーと対峙した時、『あぁこれが最後かもしれない』って思ってね。『18.44mの真剣勝負はこれが最後かもしれない。だったら、この場を楽しまなきゃ』って思ってプレイしたよ」

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