無傷の20連勝。
恩師と同僚とライバルが見た「2013年の田中将大」

  • 阿部珠樹●文 text by Abe Tamaki

 今年の田中はWBCで日本代表の柱として期待されながら、思うような投球ができなかった。そしてチームも3連覇を逃した。コンディション調整でもメンタル面でも苦しいことが多かったと想像できるが、そのWBCこそが飛躍の転機になったと語るのは、日本代表の投手コーチだった与田剛氏だ。

「今回の田中は2009年の大会と違って、自分がやらなきゃという気持ちが大会前から伝わってきていた。大会では思うような結果が残せなかったが、それでも彼にとっては意味があったと思う。思うようなボールが投げられなくても、その中でどうすればよいのかを考えられるようになった。投球に対する考え方がシンプルになりましたよね。悪い時でも無理にいい球を投げようとせず、今投げられるボールで勝負する。そんな考え方ができるようになったんだと思います」

 精神的な変化を指摘するのは吉井理人氏も同様だ。ファイターズの投手コーチとして対戦してきた吉井氏は、田中のウィークポイントは「気持ちのコントロール」にあると考えていた。

「去年までは気持ちのコントロールがあまりうまくなかった。一度テンションが上がってしまうとなかなか元に戻ることが出来ない。でも、今年は常に同じ気持ちで投げている。状態のよくなかったシーズン序盤でも気持ちは落ち着いて投げられていた。そうした精神面の成長が連勝を生んでいる」

 それは駒大苫小牧時代の恩師である香田誉士史氏も感じていたことだ。

「これほどの投手になるとは、正直思っていなかった。球が速くなったとか、変化球のキレが良くなったとか、技術的な要素も多少はあるかもしれないですけど、一番は精神面の成長だと思います。以前は力任せに投げていたこともあったけど、今年はそうした姿はほとんど見られなくなった」

 最後に山崎武司が教えてくれた興味深いエピソードを紹介しておこう。

「田中は入団した年、クイックモーションができなかった。シーズン中に覚えようとしたけど、投球のほうに気持ちが行っていて覚えられなかった。でも、2年目のキャンプでは、それが自分の課題だと自覚したようで、ものすごい集中力でキャンプ期間中に完璧にものにした。自分のテーマが見つかったとき、どうしてもやり遂げようとする意識、集中力は並外れている。それが田中の最大の武器かもしれないね」

 連勝記録を聞かれても、今年の目標は「優勝」と答える田中。おそらくそれが今年のメインテーマと思い定めて、力を集中させているのだろう。とはいえ、連勝記録もまだまだ止まりそうにない。


3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る