「投手の繊細さ」と「打者の大胆さ」。日本ハム・大谷翔平が持つふたつの刀 (5ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 バッターとしては、開幕スタメン。

 ピッチャーとしては、一軍で先発。

 これを実現させることが、指揮官の“宣戦布告”だった。「プロで二刀流は無理」「どっちつかずの中途半端になる」「ケガをする」といった“球界の常識”を振りかざす声に対して、『大谷翔平は二刀流でいく』という指揮官なりの覚悟を示さなければならなかった。そして鶴岡も、ピッチャーとしての大谷にこれほどの魅力があることを満天下に示すために、初回、ストレートのサインを出し続けた。試合後の大谷は、こう言っていた。

「気がついたらまっすぐしか投げていなかったという感じだったので、どんどん真っすぐで押していきました。自信もありましたし、実際、まっすぐで押して行けた。そこは鶴岡さんもそういう配球でしたし、スライダーで変に当てられるより、真っすぐでファウルを取ったほうがいいと思ってましたから、そこはよかったと思います」

 5回を投げて86球、そのうちストレートは64球、そして150㎞/hを超えたのは、43球。

 なんというピッチャーか。

 繊細な方の大谷で、これだけのピッチングができるのだ。栗山監督は言った。

「バッターボックスとマウンドでは顔が違う。どっちも本物だよ」

 マウンドでは戦っている。そして、バッターボックスでは楽しんでいる。これが、大谷の二刀流の“現在地”だと思う。大谷はこう話した。

「マウンドではすごく楽しんで投げられました。バッターはバッターで楽しいところがあるし、ピッチャーにも楽しいところがあります。ひとつひとつ課題も出てきますけど、その分、練習して、次の試合は勝って喜べるように、しっかり準備したいと思います」

 たったの2カ月で、大谷が示したこと──。

 バッターとして、さほど練習しなくてもヒットを打ててしまう。

 ピッチャーとして、150㎞/hを超えるストレートを投げられる。

 今まで球界に二刀流でいずれも一流の域に達した選手はいない。しかし、それが叶わなかったのは、そこまでのレベルだったからだというふうにも考えられる。プロではひとつのことを命懸けでやらないと一流にはなれない。しかし、大谷のレベルがもっと上にあるとしたら……それぞれ7割でも一流に届くのなら、彼はまさしく100年に一人の選手であり、二刀流という球界の常識を覆(くつがえ)す挑戦にも頷(うなず)ける。大胆な大谷に繊細さが加わり、繊細な大谷に大胆さが加わったら、誰も足を踏み入れたことのない高いレベルの二刀流という未来は、故(ふる)きを温める――つまり、今まで己の中に宿っていた才能と向き合うことで切り拓かれる。まさに“Back to the future”だ。

 どちらかに絞るための二刀流ではない。どちらにも凄みを加えるための二刀流なのだ。そして、そう信じさせるだけのフェロモンが、大谷翔平には確かに宿っている──。

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