【WBC】今の前田健太は「日の丸」のために無理をすべきではない (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小内慎司●写真 photo by Kouchi Shinji

 WBCについて、「そりゃ、すごく出たい。憧れです。最近はずっとWBCに出たいと思ってやってきました。ようやくその可能性があるところまで来られたので、もし選んでもらえればすごく嬉しい」と話していた前田。中学時代、前田はボーイズリーグの日本選抜のメンバーに選ばれ、ブラジルで行なわれた世界大会の舞台に立ったことがある。ブラジル、アメリカ、韓国と戦い、日本を世界一に導いた前田は、MVPを獲得した。

「胸にJAPANと入った、ストライプのユニフォームでした。日の丸、嬉しかったですね。あの時は中学生ですから、日本を背負ってるなんて思わなかった。でも今はプロですから、日本を背負って戦わなきゃと思ってます」

 マエケンという男は──。

 引退する石井琢朗のために、痛くても投げてしまう。

 そうした責任感の強さゆえ、WBCではプロとして日本を背負おうとしてしまう。
 
 そして、どこかが痛くても普段は使わない引き出しをあけて、試合を作ってしまう。

 WBCには球数制限もある。右肩の調子が思わしくなくても、先発として限られた球数を投げるくらいなら大丈夫だと自分に言い聞かせているのかもしれない。そんな状態でも相手のバッターを抑えて、試合を作ることができるだけの自信もあるのだと想像する。

 だから前田は、誰に聞かれても「大丈夫」だと答えているのだろう。

 山本浩二監督は「前田はもっと悪いかなと思っていたけど、その割に本人はつかんだという感じだと言うし、これから上がっていくのかな」と話し、東尾修ピッチングコーチは「若干の誤差はあるけど、投げられる準備はしてきたようだし、肩のスタミナはついてきたのかな」とコメントしていた。痛みと違和感の違いは本人にしかわからないのだし、前田自身が大丈夫だと言い続ける限り、メンバーから外すのは難しい。ドクターストップでもかからない限り、首脳陣も前田の言葉を信じるしかない状況だ。

 だからこそ、前田にはもう一度、リセットして考えて欲しいと思う。

 引き出しの多さも、責任感の強さも、WBCへの思いもあるだろう。世界に前田健太のピッチングを見せつけたいと思っているのかもしれない。しかし、例えば“ケンタ・マエダ”の名前と能力を知らないメジャーの球団はない。広島のファンは、今年こそクライマックス・シリーズへマエケンと一緒に行きたいと夢を見ている。何よりも前田健太というピッチャーを、ここで潰してしまうわけにはいかない。無理をしていいことは、ひとつもないのだ。

 沈丁花(じんちょうげ)の香りが漂う頃、世界一になるために、日の丸を胸につけた前田健太が高々とふりかぶる姿は、誰もが見たい。それでも、前田には冷静な判断を促してほしい。前田には酷な言い方になるかもしれないが、責任ある立場に就いている前田以外の誰かが「大丈夫だ」と自信を持って言い切れない限り、前田は今回のWBCで投げるべきではないと思っている。

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