【プロ野球】叩きのめされても這い上がってくるヤクルト・赤川克紀のプロ根性 (3ページ目)

 この春、4月21日。

 赤川がジャイアンツ相手にプロ初完封。高橋由伸、阿部慎之助といった左打者のタイミングが合わない。アウトコースのボールに繰り返しスイングを崩されている。スロービデオを見て驚いた。おそらく、ツーシーム。左打者のアウトコースに外れるようにやって来て、そこからストライクゾーンに沈んでいく。
 
 魔球である。

 安心して投げているように見えてしょうがないのは、このボールがあるからだ。困った時のツーシーム。そんなこと、心の中で口ずさみながら投げているんじゃないかな。

 4年前、この手で受け止めた「カットストレート」とのコンビネーションが放射線状の球筋を形成して、ジャイアンツ打線にスイングをさせなかった。

 偉くなっちゃったなぁ……。
 でも、よかった。

 プロにひどい目に遭っていた1年目の秋の、あの憔悴(しょうすい)ぶり。「あのまま」にならなくて、本当によかった。

 思い出したことがひとつあった。

 夏の県大会がはじまる数カ月前のこと。神奈川の東海大相模高に遠征にやって来た赤川は、大田泰示(現・巨人)、角晃多(現・千葉ロッテ)らの強力打線に立ち向かったが、試合序盤で大量失点するなど大炎上。完璧に粉砕されて、宮崎へ帰っていった。なのに、それから2カ月後、甲子園の大舞台で大ブレイク。

 一度、立ち直れないほど叩きのめされながら、そこでグッと踏みとどまって、そこから雄々しく立ち上がっていく。もしかしたらそれは、彼自身も気がついていない、赤川克紀の独自の「スタイル」なのかもしれない。

プロフィール

  • 安倍昌彦

    安倍昌彦 (あべ・まさひこ)

    1955年宮城県生まれ。早大学院から早稲田大へと進み、野球部に在籍。ポジションは捕手。また大学3年から母校・早大学院の監督を務めた。大学卒業後は会社務めの傍ら、野球観戦に没頭。その後、『野球小僧』(白夜書房)の人気企画「流しのブルペンキャッチャー」として、ドラフト候補たちの球を受け、体験談を綴っている。

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