【プロ野球】開幕戦、プロ初完投勝利。斎藤佑樹が解いたひとつの封印 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 あれから3年を経た、2012年3月30日。

 甲子園で、神宮で、幾多の大舞台を踏んできた斎藤が、開幕戦の札幌ドームのマウンドに上がった。もちろん、プレッシャーはある。彼にのしかかっていたのは、ファイターズの開幕投手を務め、世界一のピッチャーを目指してチームを去ったダルビッシュの影や、開幕のマウンドに上がる斎藤の背中をさりげなく押してくれた武田勝の気遣い、さらには「結果を出すためにこっちは最大限の場所を用意する、それが当たり前なんだ、背負ってやるんだという想いで頑張ってもらわないと」と、斎藤を開幕のマウンドに送り出した栗山英樹監督の期待。そして何よりも、手応えのあるオフを過ごし、自信を抱き始めた2年目の自分自身に対する期待を心に秘めて、斎藤はプロ野球選手として初めてと言っていい、責任の伴う大舞台に立っている。

 そこで垣間見えた、斎藤の決意──。

 そもそも吉井理人ピッチングコーチは、去年から斎藤にプレートの三塁側を踏むよう、勧めていた。右ピッチャーが三塁側を踏んで投げれば、右バッターのアウトコースへの対角線をより効果的に使えるからだ。しかしそういうところで頑固な斎藤は、吉井コーチのアドバイスに従っているふうでいて、その実、1年目の封印にこだわっていた。そして2年目、斎藤はまず、ひとつ目の封印を解いたのである。

 右打席に入った先頭のヘルマンに対する初球。139キロのストレートは、緊張感が斎藤を力ませたせいか、やや高く入ったものの、しっかり腕を振って投げ切った分、狙ったインコースにきっちり決まった。これで、ワンストライク。2球目はアウトローにスライダーがワンバンしたものの、ヘルマンのバットが出かかってスイングを取られ、追い込んだ。そして3球目、140キロのストレートがインローいっぱいに決まって、三球三振。

 2番の栗山巧が左打席に入ると、その初球、三塁側のプレートを踏んだ斎藤は、対角線を利用したインコースのストレートをズバッと投げ込む。さらに2球目、バックドアのスライダーをアウトコースに配して、またも2球で追い込んだ。最後は力のある真ん中高めのストレートで栗山のバットを押し、サードゴロに打ち取って初めて、斎藤の口元に笑みが浮かんだ。3番の中島裕之、4番の中村剛也を続けて歩かせ、5番の嶋重宣にはあわや3ランホームランかという特大の当たりを打たれたものの、どうやら野球の神様はこの日の斎藤に味方してくれているようで、この打球がわずかに切れてファウルとなる。結局、斎藤は初回を無失点で切り抜けた。そして2回以降、斎藤の快刀乱麻が始まる。

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