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山本由伸の2試合連続完投勝利は「野球が本来あるべき姿」 一流投手たちが賞賛する理由と11年前のダルビッシュ有の提言 (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【11年前のダルビッシュ有の提言】

 このシャーザーの発言を聞いて、筆者の脳裏に浮かんだのは2014年のダルビッシュ有の言葉だった。あの年のオールスター戦前日の会見で、当時メジャー3年目だったダルビッシュは、肘を痛めてトミー・ジョン手術を受ける投手が急増している現状について、自身の見解を語っている。

「いろんな原因が指摘されていますが、僕としては最近のトレーニング方法にも問題があると思っています。今はピッチャーに球速を求める傾向が強く、下半身や背中を重点的に鍛える。でもそれをやると確かに球は速くなるけれど、腕の保護まではできない。スピードが上がるぶん、靱帯にかかるテンションがより大きくなっているのに、その部分を守れない。それがケガの一番の理由だと、僕は思います。

 スプリットが悪いと言う人もいますけど、スプリットが肘に負担をかけるとは思いません。(スプリットを多用する)日本のプロ野球では肘の故障は少なく、トミー・ジョン手術を受けた投手は、僕の知る限り過去10年間で3〜4人くらいです。でもこちら(アメリカ)では、1年に何十人も出る。

 もうひとつの要因は、登板間隔だと思います。こっちは中4日で回るけれど、それは絶対に短い。こちらでは球数制限を重視しますが、球数自体はほとんど関係ない。120球、140球投げても、中6日あれば靱帯の炎症は完全に回復する。中4日で投げるのはいいけれど、10年前、20年前と比べると禁止薬物の範囲が広がっていて、今は風邪薬さえ飲めない時代です。それも関係しているのかもしれませんね」

 ダルビッシュは中4日ローテーションの改善が難しい理由も理解していた。

「中4日を中5日や中6日に変えると、登板数が減り、投手一人ひとりの年俸も下がる。でも投手を守りたいなら、先発枠をもうひとつ増やしてでも、ローテーションを緩くしたほうがいい。中5日、中6日、最低でも中5日あれば、ずっと楽に回れると思います」

 この発言をしたとき、ダルビッシュ自身もすでに肘に違和感を抱えていたのだろう。そのシーズンは10勝7敗、防御率3.06の好成績を残したが、8月9日の登板を最後に肘の故障でシーズンを終え、翌2015年3月にトミー・ジョン手術を受けることになった。

 11年前のダルビッシュの提言は、今振り返れば驚くほど的確だった。しかし残念ながら、その意見が当時のMLBで大きな影響力を持つことはなかった。むしろ球界は、彼の提案とは逆の方向へと進んでいった。メジャーでは「球数が多いのは肩や肘に悪い」と決めつけられ、先発投手は100球を超えると交代させられるのが常識になった。その結果、先発投手は完投どころか、長いイニングを投げることさえ諦めるようになった。代わりに、交代までの短い時間を全力で腕を振り、あとはリリーバー陣の継投で勝利を狙う――それが現代野球の標準的なスタイルとなった。

 山本の完投劇のあと、ドジャースのマーク・プライアー投手コーチはこう語っている。

「今の時代に"完投を狙おう"なんて考えて登板する投手はいませんよ」

つづく

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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